2023年9月10月の旧譜、新譜紹介をお送りします。今月も新譜はほぼ聴いてないですね。全くゼロというわけでもないですけど何か書きたいと思うまでには至らないというか。まぁ最近出たという理由だけで聴かなきゃならないという訳でもないし。
「DIGITAL TWIN」Blksmiith (2022年)
どこで知ったかもう忘れてしまったけど、お気に入り登録してあって久々に聴いてみたらかなりハマってしまった。ブレイクコアやドラムンベースをメインとした攻撃的なテクノミュージックでかなり好み。90年代っぽい懐かしさみたいなものがちらほらするのはそこらへんのアニメなどから影響を受けていることからくるのだろうか。なんとなく押井守によるパトレイバーや攻殻機動隊みたいな世界観を感じる。Blksmiithはニューヨーク在住のアーティストということ以外あんまりよくわからなかった。でてきた写真を見ると白人男性っぽい。本作のジャケットに日本語がフィーチャーされていたり、他のアルバムやバンドキャンプのページとかにもガンダムやスラムダンクをつかったコラージュ等が採用されているのであながちパトレイバーや攻殻機動隊のたとえも的外れではなく、日本のアニメや漫画に興味があるオタクが作り出した超クールな音源が本作である。
「Oh Caroline」The 1975
先月に続きまたかよと言われそうだがハマってるから仕方がない。The 1975の最新作『Being Funny in a Foreign Language』からのリードシングル曲。わりとシンプルな曲(というかThe 1975お得意のファンクやAORをかなりポップに展開してみせるスタイル)だと思うが、いつものマティーとダニエルのソングライティングチームにレーベルメイトのSSW複数人のクレジットが入っていて、これはどうやって作曲作業進めているんだろうと結構気になった。
個人的にはPVがかなり好きで、マシュー・ヒーリーが扮する老人が昔の華やかなバンド活動や恋人との運命的な出会いを懐かしんで踊るという内容である。歌詞はもちろんPVと重なるところがあって、恋人と別れてもう一度やり直したいという主人公の悲痛な叫びの曲である。まあ。よくある内容の歌詞といえばそうなのだが、ドラマチックなメロディーラインとアレンジ、ダンサブルでポップな楽曲に仕上がっていて、歌詞の内容を胸打つものにしている。誰しもが、激しく後悔していることや悲痛な別れをそれなりに経験しているかと思うが、そんな思い出に呼応するような曲で、苦しいのだが、めちゃくちゃポップで聴きやすいので何度もリピートしてしまった。
PVの中では、恋人とは別れてしまったが、バンドで一緒だった仲間と歳をとったいまでもつるんでいるという、なかなかハートウォーミングなオチがついていてそれが救い。こういう爺になりたいものですな。
「Katy Song」Red House Painters
こちらも先月に引き続きだが、Red House Paintersを紹介したい。前回はファーストアルバムまるごとだったが、今回はセルフタイトルアルバムとなったセカンド収録の一曲をとりあげる。実は彼らにはセルフタイトルアルバムが二枚あり、この次のアルバムも同じ『Red House Painters』なため、本作はそのジャケットから通称 Rollercoasterアルバムと呼ばれている。CDにして二枚組の大作となった本作を丸々紹介する予定だったが気づいたら二曲目の「Katy Song」ばっかり聴いているので今回はこれだけ取り上げたい。
もう感情の起伏すらも忘れてしまったような諦念につつまれた主人公がぽつぽつと昔の物悲しい話を語っているようなそんなサウンドで、美しくて居心地がいいけどとても悲しい世界である。自己憐憫にどっぷりとつかっているような感覚があり、さながら「Creep」のスロウコアバージョンみたいな名曲。もう慣れてしまったが、最初は、ギターの美しく、静謐な響きと、それを切り裂くようなこのスネアドラムの音と、どこまでも静かにダークな感情を歌いあげるボーカルとの組み合わせが新鮮で驚きをもって聴いていた。内容もそのサウンドにふさわしく、先ほどとりあげたThe 1975の曲同様、悲痛なラブソングである。
『Automatic Writing』Robert Ashley 1979年
アメリカの実験音楽作曲家、ロバート・アシュリーの作品で近年ではアンビエントの文脈で評価されている一枚。遠くでシンセサイザーが教会のオルガンみたいに静かにずーーっと鳴っている。凹凸のあるブリキの棒でなぞっているような、よくわからない音もずーーっとなっている。そこに女性のささやき声と、ロバート自身の加工されたモノローグが流れている作品で、ロバートの声はくぐもっており、殆ど何を言っているのかわからない(彼は軽度のトゥレット障害を患っており、このモノローグの録音はリハビリ的な側面もあったという)。これらの要素をベースとして、時折隣の部屋かどこかで鳴っているような全然関係のない音楽の音が入ってきたりする。とまあ、これが46分続くアルバム。文章だけ見ると随分カオティックな一枚に見えるが、アンビエント黎明期の名盤として捉えられている通り、不思議な調和が存在しており、その静謐な世界にずっと浸っていると静かな感動が湧き上がってくる一枚。当時はレコードだからA面、B面に別れていた。現在ではサブスクだから途切れなく聴くことができる。こういう長尺の曲一曲のみのアルバムも続けて聴けるようになったのもレコードからCDになって良かったことの一つ。再発版は他二曲収録していて、サブスクでも聴けるがそっちは殆ど聴いていない。
「In The Stone」Earth, Wind & Fire
コントのBGMに使われそうな大仰で結構引っ張るオープニングから体を強制的に躍らせてくる強烈なグルーヴに突入して行くイントロがたまらない一曲。彼らが持つ強度の高いファンクネスとプロデューサーであるデヴィッド・フォスターの洗練されたポップネスが組み合わさってバッキバキに仕上がっている。時々70年代で一番偉大だったのはEW&Fだったんじゃないのかって思える瞬間があるがこの曲もそんなインパクトがある。そんな理屈抜きでもめちゃくちゃ楽しく踊れてしまう曲。