2024年4月~7月のおすすめ新譜、旧譜

かなり間隔があいてしまったが皆さんいかがお過ごしでしょうか。自分はプライベートで色々と大きな変化があり、それもあって精神的にも肉体的にも忙しく、余裕のない日々が7月中旬まで続いていたので、当ブログはおろか、X(旧Twitter)の更新も殆どない状態になっていた。勿論その間全く音楽を聴いていなかったわけでもなく、色々と素晴らしい音楽との出会いもあったわけだが、忙しい合間を縫って音楽を聴かずに『ソプラノズ』という昔のアメリカのTVドラマをずっと見て現実逃避していたのでいつもよりも聴く量は少なかったと思う。

『Two Star & the Dream Police』Mk. gee

限定で販売された日本盤レコードの帯によると「マギー」と読むらしい(アメリカのTV番組の紹介場面を見てみたが「ミッギィー」と聞こえた)アメリカ、ニュージャージー出身のSSW。その音楽性はリバーブやエコーを効かせた今っぽい音響処理がボーカルとエレキギターにほどこされた弾き語りのような素朴な構成に、必要最小限の素朴な打ち込みのドラムが入っているというスタイル。楽曲の構成や楽器構成自体はシンプルだけど、音響処理が複雑だったり心地よく過剰だったりするのが実に2020年代っぽい。それでいてメロディはメランコリックでエモーショナルで内省的。つまりオルタナティブR&B的のギター弾き語りによる解釈みたいな内容になっていて最高。そのアレンジによって見ようによってはデモ音源のようにも聞こえるかもしれない。全編こんな感じなんだけど、メロディが良いし、心地よい時間が続くのでダレることなくずっと聴いていられる。特にアルバム中盤「Candy」「I Want」「Alesis」の流れが素晴らしい。このアルバムから僕はプリンスブラッド・オレンジがまとっていた哀愁と感情の高ぶりを感じ、僕がプリンスやブラッド・オレンジに求めていたものがMk. geeを通して浮き彫りになってしまった。大して量聴いてはいないのであまり説得力はないがいまのところ2024年年間ベスト最有力候補。こういうのは是非フィジカルでも持っておきたいんだけどバカ高いレコードしか出てないんだよな……。

『Los Angeles』Flying Lotus

今更取り上げるのも恥ずかしいぐらいのIDM/インストHip Hopの超名盤。フライロー(フライング・ロータス)の出世作として名高い本作、今まであんまりピンと来てなかったが、なぜか今になって完全に開眼してめちゃくちゃ聴いているので取り上げてみる。インストHip Hopの名盤といえば、メランコリックで哀愁漂うDJ Shadow「Endtroducing……」、ひたすら楽しいJ Dilla『Donuts』、サンプリング芸術の極みThe Avalanches『Since I Left You』だと思うのだが、そのなかで一番アブストラクトなんだけど一番熱量があり、前のめりに踊らせる力があるのが本作だと思う。とにかく恰好良い。昔聴いてピンとこなかった人はイントロ的な役割の一曲目は飛ばして2曲目から聴いてみてほしい。こんなカッコいいHip Hopなかなかない。

「Spring Is Coming With A Strawberry In The Mouth」Operating Theatre / Caroline Polachek

たまーに時代を先取りしすぎてわけわかんない音楽が存在するが、Operating Theatreの「Spring Is Coming With A Strawberry In The Mouth」はそれの最たるものではないだろうか。一聴して、この過剰さと絶妙な引き算、ビートの強さ、スポークンワード&コーラスという曲のスタイル、このバランスは早くて2018年ぐらいの音楽だと思ったが、なんと1986年だった。うーん、このテイスト、絶対80年代じゃない!

実は、この曲は昔偶然聴いていて、凄いなと思ったけど、ブックマークしたまま、その存在はしばらく忘れてしまっていて、去年大絶賛されたセカンドアルバムをドロップし、フォーカスがあたっていたキャロライン・ポラチェックによるカバーを最近偶然聴いて度肝を抜かれ、なんだこの曲と思ったらカバーだったという経緯があって、同じ曲で2度も驚けてしまったのだが、キャロラインのアレンジだろうと思った部分が実はオリジナルでもほぼそのままだった。つまり何がいいたいかというと、キャロラインほどのアーティストがほぼそのままのアレンジでカバーしたくなるのもわかるぐらい、原曲のアレンジはエッジ―で2020年代的、ということである。おすすめ。

「Modern Girl」Bleachers

佐野元春尾崎豊ブルース・スプリングスティーンに見た夢みたいなものを本国アメリカでやってる人、意外といないなと思っていた(知らないだけかもしれない)が、いた。それが、テイラー・スウィフト、クレイロ、ラナ・デル・レイ、The 1975などのアルバムのプロデュースを務め、今を時めくジャック・アントノフ率いるブリーチャーズである。今年リリースされたこの曲はブルース・スプリングスティーン的な要素が詰め込まれつつも、現代風な音響とアレンジで、疾走感と躍動感とポップさのバランスがここちよい見事なロックンロールに仕上がっている。

完全に自分の好みの話であるが、本家のボス(ブルース・スプリングスティーンの愛称)は、70年代は若干渋いというかもう少しポップであって欲しいのと、80年代はあまりにも時代に寄り添い過ぎたサウンドが若干古臭く、痒い所に手が届かない感じで、それこそ彼に影響を受けた佐野元春や尾崎豊のロックサウンドの方が好きなのだが、今回のブリーチャーズはそんな自分のニーズを満たしてくれる最高の一曲だった(そもそもボスのスタジオアルバムに関しては完全弾き語りの『ネブラスカ』だったり、哀愁漂うシンセポップがメインの『トンネル・オブ・ラブ』が一番すきで、完全に邪道なファンである)。

ということでボス好きはもちろんのこと初期佐野元春や尾崎豊好きにもおすすめ。

ブリーチャーズが本国で流行ることで海外で佐野元春や尾崎豊が注目されないかな……という淡い期待もある。

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