2024年8月、9月のおすすめ新譜、旧譜

最近この「おすすめ新譜、旧譜」記事を見返してみたら、忘れているものも多く、書いててよかったなと思った。サブスクを始めてから音楽の守備範囲ははるかに広がったが、自分が本当に好きなものが、わかりにくくなったような気がする。「おすすめ」などと人のよさそうなことを謳っているが、実のところ自分の備忘録的な役割の方が大きい。ということで、音楽好きの皆さんは是非、日記がわりにこういう記事を書いてみてほしい。自分の為に。

8月は本を読んだり海外ドラマを見ていることが多く、音楽はそれほど聴いていない。あとオアシスが再結成してまたオアシスを少し聴いたりした。9月、5年ぶりに邦楽アルバムランキング企画を立ち上げる。その集計の為かなり忙しく、あまり聴けてなかった。本稿のアップがいつもより遅いのもその為である。

「BIRDS OF A FEATHER」Billie Eilish

今を時めくスターポップシンガー、ビリー・アイリッシュの今年出た新作アルバムの中の一曲。最近ではパリ・オリンピックの閉会式の時に、LAオリンピックの宣伝の場でも披露された曲で、彼女の新しい代表曲と言っても差し支えないと思う。洋楽の歌詞なんてどうでもいい、気にしないとかいう人がいるが、この様な優れたポップソングに出会う度、純粋にもったいないなと思ってしまうし、ラブソングなんてくだらないっていう人はこの曲を聴いて「ラブソングって最高じゃん」と思ってほしい。話の内容自体はよくある愛の終わりを描いた内容だが、丁寧に韻を踏んでいる気持ちよさと、彼女の歌の表現力で切実さが痛々しい程伝わってきて、リスナーの心を深くゆすぶってくる。今時恋愛がずっと続くなんて信じてる人は殆どいない。この曲の主人公もそんなことは分かってはいる。だからこそ死ぬまで一緒に居たかったと様々な表現で畳みかけてくる冒頭や後半のロングトーンが胸を打つ。

正直自分はビリー・アイリッシュに関してはそれほどのめり込んでいたわけでもなく、凄い存在だなと思いつつも「Bad Guy」ぐらいしか口ずさめるような曲もなかったが、この曲にはどっぷりとはまってしまった。職人的に丁寧に作られた極上のシンセポップだが、いい仕事で終わらせないポップミュージックの魔法がこの曲には息づいている。

「友達」KOHH

最近では本名の千葉雄喜としてちょっとした「チーム友達」旋風を巻き起こしているKOHHの代表曲。この曲はそのタイトル通り友達がテーマになっている。センチメンタルなトラックの力も大きいと思うが、特に悲しいことを歌っているわけでも無いのに何故か悲しみが滲み出ている。KOHHのラップはとても平易な言葉で綴られるのだが、普段我々が立ち止まって意識することのない人生、この生活、その現実を否応なしに突きつけてくるのでハッとさせられるし、胸を打つ。だから聴く時にはいつもちょっとした覚悟がいる。この曲もずっと変わらず友達と遊ぼう、遊びながら作品を作って稼いで楽しく生きよう、といっているわりに、家族を築いた友人達や、死んでいなくなってしまった友人たちのことを淡々と羅列していき、むしろ変わらないものなど何も無いという事を突き付けてくるし、楽しい生活とはなんなのかを考えさせられてしまう。通勤電車に揺られながらなんとなく聴くのは危険な曲だが、車窓に映し出される風景やホームを行き交う人々の姿に実にマッチしている。

『Instant Vintage』Raphael Saadiq

2010年代の大名盤であるソランジュの『A Seat At Table』や2000年代を代表するアルバム、ディアンジェロ『Voodoo』にも関わってるのに、それらを絶賛してる層になぜか殆ど聴かれてない気がするラファエル・サーディク。本作は彼のソロ一作目。ネオ・ソウルの火付け役、元祖ともいうべきトニー・トニー・トニーでボーカルのみならず、ベースを担当していたこともあり、ベースラインがとにかく気持ちがいい。とにかく上質で上品なネオ・ソウルといった仕上がり。2000年代を代表する名盤として挙げられないのが不思議なぐらいの完成度だが、上質過ぎて損をしているかもしれない。ジャンルにおける基準や軸としても機能する一枚だと思う。

「Harmony Hall」Vampire Weekend(2019)

4月に彼らの新譜『Only God Was Above Us』がリリースされた。で、自分はその時新譜と並行して何を聴いていたかというと彼らの昔のカタログを一生懸命聴いていた。ヴァンパイア・ウィークエンドですごいと思うのは3rdや最新作なんだけど、好きなのはもうちょっと力の抜けた1st、2nd、そしてこの曲が入っている4枚目だったりする。音楽的にはストーンズの「無常の世界」やプライマル・スクリームの「movin’ on up」などのゴスペルをベースにしたロックの系譜なのだが、他にもアンビエント的な持続音だったりとにかくいろんな要素が澱みなく組み合わさっているのでそうだと気づくのにとにかく時間がかかった。わかってしまえばなんで今までわからなかったんだろうと不思議に思うが。

先程ビリー・アイリッシュの項目で述べた事とやや矛盾するが、サビの「I don’t wanna live like this. I don’t wanna die.」、その部分だけ都合よく切り取って勝手に勇気づけられたり、ちょっと涙ぐんだりして毎日を乗り切っている。

『Beastie Boys Story』(2020)

古くなった携帯を買い換えたらApple TV+が3か月の無料お試しが体験可能だったので、折角だからApple TV+しか見れないこのビースティ―・ボーイズのドキュメンタリーを見てみた。監督は彼等のPVを何本か手がけているスパイク・ジョーンズ。やはりこう言ったドキュメンタリーで一番興味深い(と、同時に退屈なパートでもあるのだが)のはどうやってアーティスト達がその音楽性を獲得してデビューに至ったのか、という部分である。このドキュメンタリーでもいかにしてニューヨークのハードコアパンクバンドが大人気ヒップホップグループになっていったかにかなりの時間を割いている。勿論彼らがもともと持っていた素質もあるのだが、80年代の前半、ニューヨークという場所で、当時最先端だったヒップホップシーンを感じながら育った少年たちの、様々な偶然が重なってそうなったその幸運を感じずにはいられない。ただ彼らはせっかくつかんだスターダムを放棄して、別の方向に進んでいった。そこからのストーリーがまたドラマチックで、真に革新的な作品群が生み出されていく始まりでもあり、本作の第二の山場になっている。彼らの音源しかまだ追っかけたことがないという人は、是非本作をみるか、彼らの優れたPV作品群(その多くがメンバーのMCAによって撮られた)を是非チェックしてもらいたい。魅力的な写真やアートワーク、様々な逸話が載ったブックレットが付いてくるアルバム『The Sound of Science』もおすすめ。たまにBOOKOFFで法外に安い値段で売られていたりする。

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