Twitterのフォロワーさんから頂いたお題で7月は殆ど2020年代の音楽しか基本聴かないチャレンジやってたので今回のオススメは新しめのばっかりです。
いや、きつかったですね。なるべく聴かない様にしてたけど、気づいたら昔の音楽聴いちゃってたりもしました。でも、2010年代もありだったら三ヶ月ぐらいは全然行けたかもしれない。
「Jackie Down The Line」Fontaines D.C.
アイルランド出身のロックバンドFontaines D.C.(フォンテインズD.C.)が今年4月に出した3rdアルバム『Skinty Fia』収録のシングル曲。正直セカンドが話題になった時一聴してピンとこなかったんですけどこれは一発ではまりました。
全盛期のオアシスみたいな確信めいた響きのボーカルに、スミスの様なダークさと憂いがあるバンドアンサンブル、ちょっとしたユーモアと攻撃性をはらみつつ、イギリスでアイルランド人として生きる事をテーマにした歌詞が最高です。音自体は一歩間違えたら凡庸になりそうなアレンジで、何かがめちゃくちゃ良いというよりは絶妙なバランスで良い曲として成立しているという緊張感もありますね。
こういう雰囲気だけでも十分聴かせる実力をもっているので、彼らがメロディまで獲得したら一体どうなってしまうんだろうという期待はあります。
次回作が楽しみです。
『Who Cares?』Rex Orange County
イギリスのシンガーソングライターRex Orange County(レックス・オレンジ・カウンティ)がオランダ、アムステルダムで現地のミュージシャン、ベニー・シングスと組んで制作した四枚目。
休日の昼下がりにドライブしながらのんびりと聴くのにぴったりな、派手さは無いが抑制された程よいポップさとチアフルで楽しいビートが心地よい一枚。
ちょっと掠れたレックスのハスキーボイスが心地よく響くポイントをついたメロディ、ベニー・シングスの作風でもある軽快なリズムと、正に両者の良いところが合わさった理想的なコラボです。
わずか12日でレコーディングされたみたいなんですけど、それも納得な適度に力が抜けた内容になっていて軽やかな心持でスッと全編通してきけるものよいです。
おススメ曲はシングルカットもされた軽快なオープニングトラックの「Keep It Up」。イントロのオーケストラ部分がちょっと長くて損してるきもするけどビートの痛快さとレックスの声のツボをついたメロディのコンビネーションが最高に気持ちいい「Worth It」。まあ、正直全部良いです。
2曲目はタイラー・ザ・クリエーターとの共演で、イントロからタイラーの好きなコード進行全開で微笑ましかったりします。
歴史的名盤では無いし、今年のアルバムランキングで上位に入る事は無さそうですけど、なんだかんだでこの先ずっと聴き続けられる良作だと思います。
「oh my love」FKA twigs
今年一月に発表されたFKAツィッグス(FKA twigs)の※ミックステープ『Caprisongs』の中の一曲。7月はこの曲と次に紹介する「Promises」を本当にずっとずーーっと繰り返し聴いてました。
『Caprisongs』はアルバムとしては3枚目なんですけどミックステープは初なのでデビューミックステープという扱いになっています。割と実験的な突き詰めた作風で有名な彼女ですけど、今回ミックステープということで、肩の力が抜けているのか今までの実験的アプローチをポップな方向で活かした非常に聴きやすい内容になってます。ということでFTAツィッグス入門としてもおススメですし、僕は彼女の今までのキャリアのなかで一番好きですね。
さて肝心の「oh my love」ですが2010年代から今までのR&Bやラップ、ポップスの要素をちりばめながら展開されるポップで切ないラブソングで、Grimesっぽいスキャット(Ayy, Ayy, Ayy, Ayy)も入ったりしていて聴きどころ満載でまったく飽きないです。
さらに面白いのが曲の頭と最後に彼女の友人2人によるモノローグがあって、冒頭ではシリアスな関係だと思ってた恋人のファミリーバーベキューに言ったら「俺たちってカジュアルな関係だよな」っていわれたり、後半では「あんたは最高にきれいだし、それをわからずにただ若さを奪っていく男どもはクソ、バイバイ」みたいなメッセージが展開されて、グッとくるんですよね。
この女性のモノローグが入るという曲の構造ですが、去年Pitchforkで年間一位の評価を得たJazmine Sullivanのアルバム『Heaux Tales』っぽくもあるんですよね。
実際参考にしたかはわからないですけど、とにかく最近のポップスのおいしい所を刺激的かつ上品にまとめあげた素晴らしい一曲であることは間違いないです。
※ミックステープとは主にラッパーなどが自己紹介代わりに作成する無料のデモテープの様な作品で、最初期は人気曲に勝手に自分のラップをのせたりする割と自由でイリーガルな形式が多かった。最近ではあまり普通のアルバムとの垣根がなくって来ている。実験的で今までにないものを作っていくのが本来の作風だけど、こんなポップで聴きやすいのも作れるよみたいな意味合いで本作をミックステープ扱いにしたのでは? なお理解しにくいミックステープという概念に関してはその歴史や在り様などを詳しく解説した『ミックステープ文化論』がおすすめ。
「Promises」Cleo Sol
この曲は本当に何度も何度も繰り返し聴きました。
イギリスのシンガーソングライター、クレオ・ソル(Cleo Sol)の去年発表された傑作セカンドアルバム『Mother』の中の一曲。アルバムはキャロル・キングを引き合いに出されれるようなソングライティングの充実っぷりとアンビエントを基調としたチルいサウンドの浮遊感も最高に心地よい名作だったんですけど、あんまり年間ベストには食い込んでなかったですね。彼女が参加していたソー(SAULT)での活躍や同じくソーに参加しているリトル・シムズ(Little Simz)に注目が集まっていたので、相対的に目立ちにくくなっていたかもしれません。
年間ベストにあんまり入ってなかったこともあって『Mother』をあんまり熱心に聴いてなかったんですけど、久しぶりに聴いたらこの曲を中心にはまってしまいました。
この「Promises」は、自分を愛する、大事にするという「oh my love」にも一部でてきた事柄がテーマになっています。たんたんとしながらも力強い生ドラムと全体を優しく包み込むような浮遊感のあるシンセ、控えめに入っているパーカッションを基調としたシンプルなサウンドにクレオ・ソルの癒しを伴った歌声でうっとりとしてしまう至福の4分半です。これは30分ぐらいは平気で聴き続けられますね。
『Harry’s House』Harry Styles
日本滞在中に聴いた細野晴臣の『Hosono House』からとったタイトルと寿司レストランの曲まで入ったHarry Styles(ハリー・スタイルズ)3枚目のソロアルバム。チャートの成績も各国で軒並み一位の大ヒット作に。にもかかわらず日本ではチャートトップ10にすら入らず……ということでも話題になった一枚。
とまあ、だらだら色々と語れそうなトピックはあるんですけど、肝心な内容について話すと、各国で好セールスをたたき出しているだけのことはあって、良質のシンセポップアルバムです。
ハリーは言わずと知れた大スターなんですけど、派手過ぎず、抑制された上品で丁寧なポップスに仕上がっていて、それが各国で好意的に受け入れられた要因でもあるのかなと思います。
じわじわと日常に溶け込んでくるようなポップさ、中毒性があって、最近僕は「As It Was~」とか「All days late night talkin’~♪」とか気づいたら口ずさんじゃってますね。
おススメ曲は、ウィークエンド「Blinding Lights」へのイギリスからの回答とでもいえそうな「As It Was」。リズミカルに刻まれるシンセが気持ちいいリード曲「Late Night Talking」。細野晴臣というよりユーミンの「瞳を閉じて」っぽい「Grapejuice」あたりでしょうか。
本作もレックスのアルバム同様、気軽に流してもいいし、聴きこんでも楽しい一枚だと思います。折に触れきき返したくなる良作ですね。
ちなみに元ワン・ダイレクションの人だということを今回初めてしりました……。
今回図らずも殆どイギリスのミュージシャンばっかでしたね。実際ここ何年かイギリスの音楽が盛り上がっていますし、今回の内容も少なからずその充実っぷりを反映しているかと思います。