10位『シャウト』ティアーズ・フォー・フィアーズ Songs from the Big Chair Tears for Fears 1985年
イングランド、バース出身のシンセポップデュオの大ヒットした2ndアルバム。
前作はテーマやサウンドも重く、ダークでした。この二作目はそういう要素を残しつつもよりキャッチーになり、憂いをたたえた優れたポップソングを展開しています。雄大で荒涼とした自然のサウンドトラックのようなスケールのデカい音像も素晴らしいです。
また演者それぞれの顔もちゃんと見えてくるバンド演奏も冴えてます。中でもメインソングライターのローランド・オーザバルのギタープレイはシンセポップの中のギターとしての在り方の一つの正解かと。
「これ聴いたことある」というような名曲多数収録。The 1975やテン年代のシンセポップが好きな人におすすめ。
9位『イズント・エニシング』マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン Isn’t Anything My Bloody Valentine 1988年
ノイズにまみれの恍惚としつつも暴力的な革新的ギターサウンドで世界に衝撃を与えたアイルランド出身のバンドの1stアルバム。
2ndの『ラブレス』(1991年)の方が名盤として名高いですけど、そのサウンドのラディカルさ、凶暴性でいえば本作の方が上ではないかと思います。
2ndはキャッチーでドリーミーなメロディーが際立って美しい一枚ですが、本作はそれよりかは幾分捻りのある楽曲で、サウンドもこっちの方が未完成で荒削りだけど先鋭的で面白いです。
いつの日か本作の評価が2ndを超える日が来るのではとなんとなく思ってます。
8位『レイン・ドッグ』トム・ウェイツ Rain Dogs Tom Waits 1985年
アメリカのシンガーソングライター、トム・ウェイツが1985年に発表した代表作。
面白いのが実験的な曲と、本来トムが得意とする美しいメロディをもつ楽曲がそれぞれ何曲かの塊になって交互に提示されてるところですね。
前者を詳しく説明すると、リズムやパーカッシブなサウンドに重きを置いた、異国情緒溢れるムードに攻撃的なギターが絡むスリリングで実験的な曲で、フィオナ・アップルが2020年に発表して、早くも名盤という評価をほしいままにしている『Fetch the Bolt Cutters』なんか本作に似ていると言われてました。
後者については、本当に美しいバラード揃いで、トムのソングライターとしての実力がわかりやすく提示されています。特に「ダウンタウン・トレイン」は必聴です。
要は変な曲とうっとりさせる様な曲が同居してるのがこのアルバムの最大の特徴なんですね。しかし不思議とチグハグではなく統一感のある一枚です。
キース・リチャード、マーク・リボー他、多数の著名ミュージシャン参加。
7位『トンネル・オブ・ラヴ』ブルース・スプリングスティーン Tunnel of Love Bruce Springsteen 1987年
打ち込みや多重録音で、ほぼほぼ自分一人で録音してしまった米国民的ロックスターの8枚目。
80年代のボス(ブルース・スプリングスティーンの一般的な愛称)は名作揃いですが、その中でも最も落ち着いた作風の本作。
今までの暑苦しいまでの熱量が切なさの方面に振り当てられたような、夕暮れ時が似合うような黄昏たサウンドが心地良い傑作です。
このアルバムは一生聴き続けるかもしれないって予感がありますね。今までの人生にふと思いを馳せてしまうようなアルバムです。夕暮れ時に車を運転しながら聴きたいです。
6位『アポロ』ブライアン・イーノ Apollo: Atmospheres and Soundtracks Brian Eno, Daniel Lanois & Roger Eno 1983年
このアルバムを聴いてると日常の些細な事がどうでも良くなる。そのぐらい宇宙的なスケールを感じさせる傑作。月の世界にトリップできます。
元ロキシー・ミュージック、U2などのプロデューサー、そしてアンビエントの始祖であり巨匠でもある、ブライアン・イーノが、同じくU2のプロデュースで組む事になるダニエル・ラノアや実弟のロジャー・イーノと作り上げたアンビエントミュージックの大傑作。
もともとは、NASAのアポロ計画のドキュメンタリー映画用のBGMとして制作された楽曲群でした。
アブストラクトで宇宙深淵が垣間見えるようなダークな前半、ポップで夢心地なサウンドがひたすら気持ちいい曲が続く後半と、隙のないアルバム。名盤です。アンビエント入門としても最適。
5位『ファースト・キッス』フェアーグラウンド・アトラクション The First of a Million Kisses Fairground Attraction 1988年
イギリスのアコースティックポップバンドのデビューにしてラストアルバム。
ボーカル、エディ・リーダーの透き通る声とエモーショナルな歌唱、ギターのマーク・ネヴィンによる生まれながらのスタンダードナンバーのようなエバーグリーンな響きをもつ極上の曲たち。それらを支える素朴ながらも優しく胸を打つアコースティックサウンド。全てが奇跡のように混ざり合ったポップアルバムです。
やはりそれは奇跡的な何かだったらしく、彼らはこの一枚で解散してしまいます。
80年代のキラキラサウンドの中ではまるでこのアルバムジャケットの様な素朴でどこか懐かしいサウンドは異端でしたが、それがかえって受けたんでしょうね。
ある意味今回の30枚の中で一番80年代らしくない一枚。
4位『ザ・クイーン・イズ・デッド』ザ・スミス The Queen Is Dead The Smiths 1986年
英マンチェスター出身のギターポップバンドの3枚目。
彼らの作品の中でも完成度とバランスの良さはピカイチで、やはり最高傑作はこの一枚だと思います。
古き良きポップスを研究し尽くしたジョニー・マーのギターの美しくも激しいコード進行とギターワーク。その上を柔軟に動き回るモリッシーの文学的な歌詞と独特のメロディーライン。そしてそれらをしっかりと支える確かな実力を持つリズム隊。それらが高水準で混ざり合ったのが本作です。
本国イギリスではQueenの『オペラ座の夜』、オアシスの『モーニング・グローリー』、レディオヘッドの『OKコンピューター』に並ぶ人気でしばしばオールタイムベストワンアルバムとして選出される傑作です。特にアルバム後半の名曲連発の流れは必聴。
3位『フェイス』ジョージ・マイケル Faith George Michael 1987年
元Wham!のメインボーカル兼ソングライターの1stソロアルバム。
Wham!の時代からゴーストライターがいるんじゃないかと疑われるぐらい質の高いポップソングを作り続けてきたジョージが、ファンク、ロック、ジャズなどの要素を取り入れてポップに消化した、捨て曲無しの隙の無いポップアルバム。
Wham!時代よりも更にブラックミュージックの要素を推し進め、ダンサブルでポップでファンキーな名曲群に圧倒される一枚です。
歌詞の内容もより幅広く深くなり、曲もほぼ一人で書き上げ、打ち込みや楽器演奏の大部分を手がけるなど、Wham!時代に軽視してきた連中を黙らせようという気合いをとにかく感じますね。
発表したシングルが5枚もアメリカのチャートで5位以内(その内4曲が1位)にランクインし、全世界で2500万枚以上を売り上げたモンスターアルバム。
2位『ザ・ストーン・ローゼズ』ザ・ストーン・ローゼズ The Stone Roses The Stone Roses 1989年
イギリス、マンチェスター出身の4人組ロックバンドのファーストアルバム。
自信たっぷりの尊大な歌詞が初期バーズを連想させるきらびやかなギターサウンドとうっとりするようなメロディーにのり、それが確かなグルーヴで聴くものを自然に踊らせるリズム隊に支えられているという最強のバンドアンサンブル。
キラーチューン満載で捨て曲もない、ロックの最もロマンティックでスリリングが瞬間がパックされた究極のデビューアルバム。
音楽的な影響力は実はそれほど及ぼしてないんですけど、後世のバンドの精神的支柱としてどっしりと鎮座する超重要バンドだと思います。
個人的にも今までの人生で多分一番か二番ぐらいに聴いたアルバムなので思い入れが強いです。
最初は一位に設定してました。
1位『ドリトル』ピクシーズ Doolitlle Pixies 1989年
アメリカ、マサチューセッツ州ボストン出身の4人組ロックバンド、ピクシーズの最高傑作として名高い2nd。
3分前後のコンパクトで奇妙で、攻撃的なポップソングが次々と繰り出されるアルバムで、聴いてて全く飽きが来ないです。
メロディーはキャッチーなんですけど、一筋縄で行かないひねくれた歌詞。ユーモアと暴力性を兼ね備えたボーカル。それらの混沌とした世界観に説得力を与える確かなバンド演奏。全てが最高です。
ニルヴァーナや、レディオヘッド、ナンバーガールなどに多大な影響を与えたので、それらのバンドが好きな人は必聴。
まとめ
いかがだったでしょうか。
細かい順位の上下は正直その時の気分もあるかもしれません。しかし、選出したアルバム30枚に関しては間違いなく名盤だと僕は思っています。
ただ一つ注意していただきたいのは、これが「僕が80年代に関して思うところの全てを表象してるランキング」ではないということです。
例えば、僕はNew Order, Duran Duranが大好きなんですけど、両者ともランク外です。彼らは80年代が、キャリアにおいて最も活発だった時期にもかかわらず、です。
というのは彼らはアルバム単位よりも楽曲単位で好きなアーティストで、アルバムにどうしても物足りなさを感じてしまうからです。彼らのベストアルバムを愛聴してきたというのもあると思います。
また80年代といえば彼、というぐらい素晴らしいアルバムを立て続けに発表してきたPrinceですが、惜しくもランク外でした。結局どれが一番好きなアルバムが決められなかったのと、先の2バンドと一緒で楽曲単位で好きなアーティストだと気づかされましたね。
また、今回のランキングにはヒップホップが結局Beastie Boysの一枚だけになってしまいました。
80年代はヒップホップの黎明期でしたが、自分にとってアルバム単位で通して好きな一枚はまだ登場しなかった時代でした。
それどころかスラッシュメタルやニュージャックスウィングなど、大きなムーブメントだったにも関わらず入っていないジャンルもあったりして、結局ロックやポップに偏ってしまったなと反省させられる結果でしたね。
またできたリストを俯瞰していただければわかるかと思いますが、89年のアルバムが多い(笑)。80年代が好きなのかちょっと疑問に感じる結果になりましたね。
そのうちにまた結果を見直してアップデートしたいなと思ってます。
そして80年代は多くのすぐれたヒット曲がチャートをにぎわせた時代でもありました。しかしながらそれらの輝かしい楽曲が収まっているアルバムもまた素晴らしいかというとそうでもないのです。
だからそれらのヒット曲が全くこのリストには反映されていないという大きな欠点もこのランキングにはあります。
ということでこのランキングを補完する意味でも、80年代の曲ベスト30をやってみました。
興味ある方は是非ご覧ください。