今回は今なお第一線で活躍する日本のロックバンド、GRAPEVINEの全アルバム、EPを全部聴いてみて、時系列順にレビューを書いていくという企画です。
実は僕が企画した邦楽アルバムランキングベスト100で16枚もアルバム、EPの得票があったアーティストがありまして、実はそれが今回特集するGRAPEVINEなんです。
日本のポピュラーミュージック史上で投票者が凄いとおもったアルバムを30枚選んでもらって、それぞれ順位をつけて投票してもらう企画だったんですけど、1アーティストにつき2,3枚選んでもらえるだけでも結構凄いことなんですけど、バインはほぼすべてのアルバムに対して投票があったんです。
別にバインのファンを対象にしたランキングじゃないんですよ。すごくないですか?
そんなこともあって邦楽を深く聴いている人の間でも、バインのファンの間でも評価がかなりわかれているんだなということがなんとなく推測されてきたんですけど、じゃあ本当にファンの間で人気があるアルバムはなんなのかすごく気になりまして(あとファンのかたの熱意が凄かったので)、GRAPEVINE総選挙なるものを実行したんです。
しかしですね、そんな企画を主催する前にちゃんと全部アルバム聴いておかないとガチファンに失礼だと思いまして、GRAPEVINEマラソンやりました(全部のアルバムを時系列順に聴いていきました)。
実は僕もアルバム4,5枚とベスト盤しか聴いてなかったので、キャリアの半分以上は聴いてなかったんですね。ということで一枚一枚聴いて感想を書いてみました。
※この記事は新しいアルバムが発表され次第随時更新していきたいと思います。
- 『覚醒』1st EP (1997年)
- 『退屈の花』1st (1998年)
- 『Lifetime』2nd (1999年)
- 『Here』3rd (2000年)
- 『Circulator』4th(2001年)
- 『another sky』5th 2002年
- 『イデアの水槽』6th (2003年)
- 『Everyman,everywhere』2nd EP(2004年)
- 『déraciné』7th (2005年)
- 『From a smalltown』8th (2007年)
- 『Sing』9th (2008年)
- 『TWANGS』10th 2009年
- 『真昼のストレンジランド』11th (2011年)
- 『MISOGI EP』3rd(2012年)
- 『愚かな者の語ること』12th(2013年)
- 『Burning tree』13th (2015年)
- 『BABEL, BABEL』14th (2016年)
- 『ROADSIDE PROPHET』15th(2017年)
- 『ALL THE LIGHT』16th (2019年)
- 『新しい果実』17th (2021年)
- まとめ
『覚醒』1st EP (1997年)
記念すべきデビューEP。しかしながらいきなり完成度が高いです。新人とは信じられないような堂々として密度の濃いギターロックを展開しています。
特におすすめの曲はやはり一曲目の「覚醒」ですかね。最終曲の「Paces」もどことなくミスチルっぽくてらしくない曲ですが好きです。
『退屈の花』1st (1998年)
デビューフルアルバム。『覚醒』の時も書きましたけど、まったく新人ぽくない(笑)。まるで5枚目ぐらいの完成度です。何でこんなに最初から完成されてるんですかね。
実はこのアルバムは個人的にずっと愛聴してきた一枚ですし、彼らを知ったのも友達にこのアルバムを貸してもらってですから思い入れもあります。冒頭で紹介したのとは別で、僕が自分ひとりで100枚選んだ邦楽アルバムベスト100企画でも25位という高順位に選出しました。
バインの好きなところってやっぱりメンバーそれぞれが作曲能力があるってところなんですよね。そういうバンドっていいバンドが多いし。特にこのアルバム、一曲目から四曲目まで、メンバー四人の曲が一曲づづ披露されてるんですよ。しかも全部名曲なんですよね。この前半の流れが最高でなんども聴いちゃいます。このアルバムは実はリーダー(西原誠)とドラムの亀井さんの作曲が半々ぐらいなんですよね。そういう意味でもバランスがいいアルバムだと思ってますし、リーダー不在の穴のデカさが浮き彫りになるアルバムだと思っています。
好きな曲を選ぶのが難しいですけど、田中さん作曲のアルバム一発目の「鳥」ですかね。ギターとドラムの絡みが最高です。
『Lifetime』2nd (1999年)
オリコン最高位3位を記録した、彼らの全キャリア中もっとも売れたアルバム。売れたということもあってなんとなくいいアルバムだと認めたくない気もするんですけど、あらためて聴きますと滅茶苦茶いいアルバムです…。
前作に続いてメンバーの作曲のバランスもいいですし、名盤としてのオーラみたいなものや、上り調子だったバンド勢いのようなものがありますね。売れるべくして売れたという感じがするし、入門編として勧めるならやはりこれですかね。
好きな曲はイントロやAメロ部分のギターのアルペジオと淡々とした感じが心地よい「SUN」。
『Here』3rd (2000年)
セカンドがそれなりに売れたので、『Lifetime』に次いで一般的な認知度は高そうな一枚。オリコンでも最高位9位でした。
というわけで結構聴いてる人の総量は多いと思うんですけど一般的に売れそうな内容ではないですね…。前作のようにぱっとわかりやすいメロディを持つ曲がほとんどなく、どちらかといえば聴きこんでいってその良さがわかっていくのかなと。そういう意味ではコアなファンに人気がありそうです。
明るく爽やかなジャケットに反して内容もちょっと暗めな一枚。もうちょっとキャッチーにアルバムになっていたらもっとGRAPEVINEはスピッツやミスチルみたいな広く一般的に売れるバンドになっていたのかなとも思います。
その点は残念なんですけど、これだけコンスタントに質の高い作品を発表できてますから、結果的には下手に売れなくてよかったなと思うんですけどね。
『Circulator』4th(2001年)
前作よりもさらにバンドサウンドが全面に出た一枚。格好いいんですけどさらに売れない方向性に行っちゃったなあと…。
しかし前作の『Here』もそうなんですけど、最初から老練していたバンドといわれる彼らですが、一番若さと勢いを感じる一枚だと思います。悪くいってしまうと荒削りな部分もあるというか。アレンジも緻密さよりも激しさなどを重視したような。
本作はベースの西原さんがジストニア治療によって一時離脱したときに作られたアルバムで3人体制で制作されました。また特徴としてボーカルの田中さんが作曲した曲が4曲と多いのも特徴ですね。西原さんの穴を埋めようとした感じなんですかね。
『another sky』5th 2002年
リーダーだった西原誠参加最終作となった5枚目。前作よりもアレンジの幅が広がったような一枚で、そういう意味では次の『イデアの水槽』の布石になった一枚かと。
一番好きなのはベタですけど「ナツノヒカリ」ですかね。GRAPEVINEって夏をうたった曲が多いですけれども、その中でも一番の名曲がこれなんじゃないでしょうか。「それはずるいよね~」とかついくちずさんじゃいますね。こういう日常会話を印象的に歌の中で聴かせていくのがうまい歌詞を書きますよね、田中さんは。
『イデアの水槽』6th (2003年)
ファンからの人気や評価も高い一作。僕も今回の企画を始める前から結構愛聴してたアルバムで、ファンだけでなく、邦楽好きの間でもそれなりの人気と知名度を獲得している一枚かなと。
リーダーの脱退が決定的になって、3人になってからの初めてのアルバムなんだけど、ピンチをチャンスに変えたような一枚で、内容的にはかなりヴァラエティに富んでいると思います。
良くも悪くもバインのアルバムは全体のトーンが統一されたアルバムが多いですが、本作はいろんな顔が見れて楽しいですね。
「アンチ・ハレルヤ」のようなユーモアが全面にでたような曲もあったりして、前作より肩の力も抜けているような印象。やっぱり『Here』以降は妙な緊張感やギスギスした雰囲気がサウンドにでていたような気がしますね。リーダーの脱退が決定的になったため、吹っ切れたのかもしれません。
そんなレンジの広さと裏腹に曲はほとんどドラムの亀井さんが作っていまして、亀井節ともいえるようなソングライティングが光る「ぼくらなら」とかバインど真ん中の名曲がきたなという感じですね。様々なバインの顔が見れるというこで入門編としても最適ではないでしょうか。
好きな曲が多くて迷いますが一番は「公園まで」。毎年年末が近くなると必ず聴きたくなる寒い季節にぴったりのラブソングなんですよ。
『Everyman,everywhere』2nd EP(2004年)
2枚目のEP。田中さんと亀井さんの曲が2曲ずつ、西川さんが一曲と作曲の割合のバランスが取れてる面白い構成のEPですね。
内容的には5曲ですが、ベスト盤用のファン投票で3位だった「Everyman,everywhere」とか、人気曲を含む濃い内容のEPだと思います。
普通見過ごされがちなミニアルバムの曲が3位になるとか、そういうところはバインらしいですね(笑)。
僕が好きなのは淡々としたビートが気持ちいい「スイマー」と「Reason」。
『déraciné』7th (2005年)
このアルバムはとにかく後半の流れが素晴らしいと思います。特にシングルだった「放浪フリーク」とか大名曲だと僕は思っています。
この曲はギターの西川さん作曲で、西川さんは曲数は少ないですけど、打率はめちゃくちゃ高いですよね。
僕の好きな曲はカントリー調の「スカイライン」。
『From a smalltown』8th (2007年)
殆どの曲は今まで通りドラムの亀井さんが作曲されてますが、本作で初めてセッションで作りこまれたバンド名義の曲が入ってくる8枚目。そういう意味でターニングポイントになったアルバムですし、今までの内容と雰囲気が結構違うと思います。僕は実はこれ以降の作風が結構好きですね。
というかこれ以降、作風が安定してきて外れなしの無敵状態になってくるんですよね。
何も聞いても品質は保証されてるというか。
しかし、このアルバム、好きな人と嫌いな人がきっぱり分かれそうなアルバムですね。僕は好きです。まず内容が結構暗い。ダークなテーマが多めです。そして前作で言えば「放浪フリーク」みたいなサビで突き抜けるような明るいナンバーがない。歌で聴かせるよりはバンドアンサンブル、アレンジの妙で相対的に聴かせる曲が多いです。なのでそういう作りが好きか嫌いかで好みがわかれるかと。
しかし、アルバムとしてのトータルの完成度でいったら、彼らのディスコグラフィーの中でも一、二を争うのではないでしょうか。
一曲えらぶとなるとかなり難しいですが「smalltown,superhero」ですかね。
『Sing』9th (2008年)
このアルバムが一番好きというファンは結構いるのではないでしょうか。Twitter上でも何人かの人にこのアルバムを進められました。そんなわけで評価の高い9枚目のアルバム。
レディオヘッドなどの影響も指摘されていますが、音のクオリティーが高いです。
まずアルバムの一曲目「Sing」からこれは違うぞ、という始まりですね。木琴みたいなチャイムの音で始まってそれとアコースティックギターが基調になり、歌が前面にでています。いままでみたいなギターがメインのサウンドじゃないんですね。録音もいつもと違う質感です。
「SLAPSTICK」みたいにシンセみたいな一風変わったギターがアクセントになって曲がはじまったり、これ以降アレンジのバリエーションも増えていきます。そして前作の延長線上でセッションで作り上げた曲も増えてますね。
ある意味古き良きロックバンド的なサウンドプロダクションだったり、いい意味での古さみたいなのも感じさせるバンドだったんですけど、これ以降最新の音を鳴らしていくぞっていう気概もちらほら見えるようになってきます。
そういう変化の面でも重要作だと思います。
『TWANGS』10th 2009年
Twangというのは弦楽器の弦がボロンと鳴る音のことだそうで、それの複数形でTwangs。タイトル通りギターが前面に出ているアルバム。
ついに半分以上の曲がセッションによって作られたバンド名義の曲になりました。それもあってバンドサウンド主体の曲が多めになっているのかもしれないですね。
個人的には「Darlin’ from hell」というバインで一、二を争うほど好きな曲が入っているアルバムでもあります。
『真昼のストレンジランド』11th (2011年)
本作も傑作の名高い一枚ですね。実際僕も今回のバインマラソンの前から聴いていた一枚でもあります。
今作もセッションで作ったバンド名義の曲と亀井さんの曲とが半々ぐらいのアルバム。ここ2,3枚でやってきたことをさらに緻密に煮詰めてつくったような完成度の高い一枚だと思います。
一曲選ぶとしたら「真昼の子供たち」ですね。一言も夏なんていってないのになぜか夏っぽい日差しを連想させるような名曲ですね。
『MISOGI EP』3rd(2012年)
『déraciné』以降、プロデューサー、アレンジャーとしてタッグを組んできた長田進ではなく、ユニコーンでの仕事で知られる河合誠一マイケルをプロデュースに迎えた三枚目のEP。
全曲なぜか日本語をアルファベット表記にしたタイトルのEP。バインって変なタイトルの曲多いですけどそれがよく出てる一枚なのかもしれません(笑)。
たしかに音の質感だったり、各楽器の聞こえ方だったりがかなり変わった気がしますね。この路線でフルアルバム聴きたかったなと思います。
一曲選ぶならスライドギターがかっこいい最終曲の「RAKUEN」。
『愚かな者の語ること』12th(2013年)
ベストアルバムを挟んで『イデアの水槽』以来のセルフプロデュース作。『MISOGI EP』の延長線上でもない不思議な位置付けの作品。傑作と大胆な変化作に挟まれて割と地味な立ち位置になっちゃってますがいいアルバムです。次作の変化への萌芽もみられます。
好きな曲はギターが格好いい「コヨーテ」。
このアルバム以降ですね、ギターの西川さんのギタープレイがぐいぐい前に出てくるようになってアレンジの奇妙さ、オリジナリティーで相当な活躍をし始めるんですよ。
勿論いままでも職人的な最高のギタープレイを聴かせてくれていたんですけど、ココからはタガが外れたようなフリーキーなフレージングだったりとにかくフレージングの自由度がめちゃくちゃ上がったんですよね。
メンバー三人の存在感がこれ以降対等になってきたような気がしてますますヤバいバンドになってきたと思います。
『Burning tree』13th (2015年)
SPEEDSTAR RECORDSに移籍後、初のアルバム。アートワークが今までの雰囲気と違ってあんまりロックバンドっぽくない、つるつるとして人工的なイメージ。従来のファンはこの時点で少しとまどったかもしれないです。僕も今回の試みがなかったらたぶん聴いてなかったと思います。内容もアートワークやレコード会社の変化に沿うように結構大胆に変化している一枚。
しかしですね、このアルバムとんでもない大傑作だと思います。とても13枚目のアルバムを出すベテランの作品とは思えないほどの変化を見せていて、すごいなとおもいましたね。
好きな曲は「MAWATA」。
しかしこのアルバム、一つ大きな不満があって、シングル「Empty Song」のカップリング曲「吹曝しのシェヴィ」が未収録なんですよ。
バインで一、二を争う超名曲だと思うんですけどね…。勿体ない…。
『BABEL, BABEL』14th (2016年)
前作での実験、新規要素をさらに推し進めたような14枚目。
基本的にセルフプロデュースですが、高野寛プロデュース曲が何曲かあって、高野さんのポップセンスとバインの良さが融合した良曲に仕上がっています。
このアルバム好きな方は高野さんのアルバムも是非チェックしてもらいたいですね。高野さんもデビュー当時から完成度の高い作品を発表してきた「不敵の新人」でした。
『ROADSIDE PROPHET』15th(2017年)
デビュー20周年で発売された15枚目。ジャケットの花束が周年要素みたいなものを感じられますけど、内容的には、特に華々しさもなく、ここ二三枚の方向性を消化した上で落ち着いた作風で示した淡々とした内容。
バンド名義のセッションで作った曲が減り、亀井さんの曲が多い体制に戻ってます。
『ALL THE LIGHT』16th (2019年)
『Burning tree』からのモードが変わったなという趣の16枚目。
ホーンセクションの大胆な導入だったり、アカペラの曲があったり、ここ最近の割とデジタルでつるっとしたサウンドよりは、アナログよりになった気がしますね。
プロデュースは『退屈の花』『Everyman,everywhere』でタッグを組んだホッピー神山。
『新しい果実』17th (2021年)
現時点での最新作。最新作が最高傑作ってアーティストにとってはこれ以上ない褒め言葉ですけど、Twitterでは本作を最高傑作っていうファンも結構いますね。普段邦楽聴かない人までこのアルバムに言及していたりして、かなり話題になってます。
それも納得の充実作で、ソウル、R&Bテイストが強めです。
コロナ禍で制作されたアルバムだけあって歌詞も辛らつだったり、ダークだったりします。
一番近いアルバムは『Sing』ですかね。新たな傑作の誕生だと思います。
一番好きな曲はソウルテイストの一番濃くて、歌詞もコロナ禍の現状をうまくとらえている「目覚ましはいつも鳴りやまない」。
まとめ
ということで、グレイプバインのキャリアをざっくりと振り返ってみました。コアなファンからすると色々と不満もあるレビューだったとおもうんですけど、また聴きこみつつ更新していきたいと思います。
アルバム全部聴く前は『退屈の花』が1番好きだったんですけど、今は『Burning Tree』と迷っていますね。
しかし、アルバム全部時系列順に聴いていくっているのは結構辛いと思うんですけど、バインの場合は全然そんなことはなかったですね。
退屈な作品が一枚もなかったです。そういう意味でもものすごく稀有な存在だと思っています。