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The Strokesの全オリジナルアルバムレビュー

今回はザ・ストロークス(The Strokes)の全オリジナルアルバムのレビューをやりたいと思います。ストロークスと言えば21世紀を代表するロックバンドですが、名盤の名高いファースト(やセカンド)が取り上げられる事が多く、他のアルバムはなかなか語られない傾向にあると思います。僕も正直一部のアルバムはまじめに聴いてなかったりしたので、この機会に彼らがどのような歩みを進めてきたのか、どのように音楽性を変化させてきたのか、じっくり聴いて語っていきたいと思います。

『Is This It』2001年

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21世紀のロックの定義を塗り替え、歴史的名盤となったデビュー作。ガレージロックやパンクをテクノ的なクールな反復で調理したスタイルで一世を風靡し、21世紀のロックの在り方を変えてしまったと言っても過言ではない一枚。その様な歴史的事実がたとえなかったとしてもいい曲がいいアレンジで演奏されていて、単純にアルバムとして優れていると思う。

個人的な話になるが、自分がストロークスを最初に聴いたのはラジオで「The Modern Age」が流れてきた時だった。一発で格好いいと思ったが、クラシックロック少年だったからThe Velvet Underground「I’m Waiting For The Man」のパクりじゃんと言って切り捨ててしまった。本人たちはVUからの影響を一生懸命否定していたり、その後認めたりしているので実際のところどうだったのかはちょっとわからない。ポップミュージック(しいては芸術全般)の歴史は先人の影響をどう取り入れるかの歴史でもあるので、そのことは今となってはどちらでも良いが、そんなこともよくわかってない頭の固い当時の自分としては受け入れがたいものがあった。

そのあと何年かたってアルバム全体を聴いて、その時にはフリッパーズ・ギターとかも好きになっていて、「引用」については寛容になっていたから、「The Modern Age」に関しては素直に聴けた。でも、アルバム全体に関しては、確かに良いのだけども自分の中のロック観と相入れないものがあったのでやはり受け入れられなかった。それがなんなのかは当時は分析できなかったが、クラシック・ロックが有していた迫力に欠けるとぼんやりと思っていた。それを今きちんと言語化するならば、60年代や70年代前半のロックや、90年代のグランジ(所謂、静と動のスタイル)などに代表されるロックに特徴的な大仰でダイナミックな展開やドラマチックな起伏であり、そういうものは確かにストロークスの音楽には欠けていた。むしろストロークスはテクノやダンスミュージック、又はヒップホップ的な一定のリズムと音色で聴かせていく音楽(勿論それらのジャンルにも複雑な展開や起伏が激しいものもある)に近く、そのような音楽に不慣れな自分にとっては楽しみ方がいまいちつかめなかったのだと思う。事実、ラモーンズとかギターウルフとかも当時苦手だった。が、それらに対する理解が深まった今、改めてこのファーストを聴くと最高のロックンロールアルバムだなと思う。

当時ピンとこなかった他の理由としてはダンスミュージックとして聴けてなかったのも大きいと思える。ロックは誕生した50年代当初から優れたダンスミュージックとして機能していて、本作も全曲踊れる最高のダンスアルバムでもある。しかも、絶妙なオフビート加減はダンスミュージックとしてギリギリ疲れすぎないという絶妙な湯加減だと思う。プレイタイムが短いということもあるけれども体感時間がものすごく短く感じる一枚。

あとストロークスはギターソロがいい。21世紀になってギターソロが死んだとかいってる人もいるけど21世紀の王道的ギターソロはこれだという説得力がある。

ということで評価は当然10点中10点。前回全アルバム評をやったアークティック・モンキーズに関してはどれが最高傑作かは議論の分かれる所だと思う。だがストロークスに関しては、好みとしてはあるかもしれないが本作が最高傑作である事は現時点では(残念ながら)揺るがないと思う(唯一対抗馬があるとしたら本作の延長線上にあるセカンドか)。

『Room on Fire』2003年

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前作の延長線上にある二枚目。ちょくちょく1stより好きという人は知ってる。基本的に音楽性はファーストと一緒だけど、「Automatic Stop」「The Way It Is」のようにドラムにユニークなエフェクトがかかっているトラックがあって面白い。その他、「12:51」ニック・ヴァレンシのシンセみたいなギターの音色とか、ストロークスは楽曲の構造を激しく変えなくても、それこそテクノみたいに音色の心地よさや面白さにもっと注力して、聴いたことないバンドサウンドを3rd以降に追求していけば良かったんじゃないかと思ってしまう。ファーストから、音をつぶして粗くした処理をすることでボーカルにやさぐれ感をだしつつ、昔のハードロックみたいに暑苦しくなり過ぎない効果を生んでいたジュリアンのボーカルにかかってたエフェクトの面白さが大きなオリジナリティの一つだったし。そういう意味ではリミックスアルバムとか聴きたい。

ファーストに負けず、本作も名作だと思うが、曲はファーストの方がいい曲が多いので10点中9点

『First Impressions of Earth』2005年

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ハードロックやメタルなど他のロック的な要素を彼らの従来の音楽性に取り入れた意欲作3rd。なんだけど結果彼らの亜流みたいなバンドの音源みたいになってしまって微妙な仕上がりに。ソングライティングも前の二枚より精彩を欠いている。

彼らのアルバムはどれも基本30分代と短めで、CD時代になって暫くたち、当時どんどん長尺の作品が増えていく中で、逆を行く潔さも魅力だったが、本作は50分越えになっていて、本作の冗長な印象を強くしている。

ファースト、セカンドでジュリアン・カサブランカスのボーカルにかかっていたコンプレッサーとオーバードライブをかけたようなエフェクトも控えめ、もしくはなくなっていて一部の曲では「ジュリアンって生だとこんな感じなんだ」という感慨はあった。

従来のロックに近いこともあって、実は最初に聴いた時は先の二枚より印象が良かった。一曲目の「You Only Live Once」が特に好きで、彼らの曲でトータルで一番聴いているかもしれない。

とはいえ、彼らの本来の持ち味や、画期的な発明と言えるそのスタイルがうまく機能しておらず、冒頭で語ったように今聴くと中途半端な仕上がりに聴こえるので、評価は10点中6点

『Angles』 2011年

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6年ぶり4枚目のアルバム。といってもその間メンバーが何もしていなかったというとそうでもなく、ギターのアルバート・ハモンド・Jr.はソロアルバムを2枚作成、ジュリアンもシンセサイザーを大胆に使用したソロ作『Phrazes for the Young』(2009)を発表。

ジュリアンのソロから「11th Dimension」。ブルース・リーの『死亡遊戯』をパロった馬鹿っぽいプロモも好き。

ベースのニコライ・フレイチュアNickel Eye(ニコライと響きが似てるからだろうな…)名義で同じく2009年にアルバムを発表。ドラムのファブリツィオ・モレッティLittle Joyというバンドを組んでアルバムを発表し、ニック・ヴァレンシもギタリストとしていくつかのレコーディングに参加するなど、それぞれのメンバーがそれぞれの活動を行っていた。

とこのようにメンバーそれぞれがぞれぞれにソロプロジェクトも行っているし、曲も作れるし、初期の音楽性があまりにもメンバーのバランスがばっちり決まっているから、てっきり最初から全員で作曲するバンドだと思っていた。が、今回クレジットに初めて注目してみたら最初の2枚はほぼジュリアン1人のクレジットになっていたからびっくりした。

で、肝心なアルバムの内容だけど、それぞれのソロ活動の影響からか、今までの彼らと全然違う曲調の曲もあり、そういう曲の方が面白いし、共作曲も増えている。The Carsみたいな「Two kinds of happiness」(そういえばこの後2013年ごろからニック・ヴァレンシが始めるCRXにもカーズっぽい曲がある)とか、レトロゲームの音楽をストロークススタイルで再現したような「You’re so right」とか、ジュリアンのソロアルバムっぽく、シンセをフィーチャーした「Games」などが聴きどころ。ただ、面白いにとどまっている感は否めず、以前の路線の曲も精彩を欠いているので、10点中6点。もうちょっと聴きこんだらもっと好きになるかもしれない……。

『Comedown Machine』2013年

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プロモーションや発表に伴うツアーなど一切なしで発表され、前作から2年ぶりとなった5作目。これは偶然タワーレコードで発売した直後に視聴機で聴いて、ソウルミュージックの影響が濃く、ファンキーで尚且つストロークスらしさもある一曲目の「Tap Out」がいい曲なのでアルバム全体にかなり期待感があった。期待していたソウルディスコっぽいアルバムではなかったが(まじでそういうのを作って欲しい)、ファンキーな「Welcome to Japan」、ファルセットで歌いこまれ、抑制されたサウンドが魅力な「Slow Animals」、廃墟で流れるリゾートミュージックみたいな最終曲「Call It Fate, Call It Karma」など、ストロークスが今まで見せてこなかった新たな一面、この路線でアルバム作れば凄いのが出来そう、みたいな断片が見え隠れするワクワクする一枚ではある。ファーストやセカンドのファンには物足りないかもしれないが、もっと聴かれてほしいと思う。10点中8点。

『The New Abnormal』2020年

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前作から約7年のインターバルをあけての6枚目で現時点での最新作。待望の新作に、バスキアの絵をフィーチャーしたアルバムジャケット、リック・ルービンプロデュースと話題性もあった。

前作との間に『Future Present Past EP』(2016)というやや実験的なEPの発売があったが、その流れというよりは、今までやってきたことの集大成的なテイストのあるアルバムで、前作から7年経っているのに、全然違うバンド感はなく、どのアルバムからもちゃんと地続きになっていて、「あ、ストロークスのアルバムを聴いてるんだ」という満足感も3rd以降の他のアルバムよりある。

ただ、やはりファーストやセカンドみたいな突き抜け感はなく、無難にいいアルバムにまとまってしまったなという印象。個人的には、前作『Comedown Machine』提示した可能性をもっと掘り下げた全然違うストロークスが見たかったけど、今までのファンをそれなりに納得させるということを優先させたという印象。ということで評価は辛めの10点中6点。なんだかんだで20年近くやってるバンドなので、未だに初期のテイストからの違和感があまりないのも逆にすごいことなのかもしれない。

まとめ

ということでストロークスの全アルバムレビューをやってみました。前回とりあげたアークティック・モンキーズよりも、個人的にはさらに距離のあるバンドだったので、ちゃんと何かをいう資格ができるぐらい聴きこむにはそれなりの時間がかかりました。まあ比べるのもおかしな話なんですけど、アークティック・モンキーズは自分たちの趣味嗜好が赴くままに割とマイペースに音楽性を変化させてきて、それに対して自分のテイストとは違うなと思いつつも「もっとこうしたらいいのに」というツッコミは安易には入れられない強度や説得力が毎回あるんですよね。ただ、ストロークスに関してはアークティックモンキーズみたいなドラスティックな変化がない分かえって「もっとこうだったらいい」という意見が3rd以降はどうしても出てきてしまいます。そういう意味ではキャリアとしては3rd以降、微妙な変化は続けつつもファースト、セカンドの頃の評価には近づけず、かといって大胆な変化も結果的に出来なかったオアシスに似てる所はあるなと思いました。

あとはどの時期の曲も映像で彼らが演奏しているところを見ながら聴くとやっぱりグッとくるので、バンドとしての華は凄くあるし、音源だけで評価するよりライブでの佇まいを含めてその功績について語られるべきではあるよなと思いました。

全体を見渡すと、厳しめの採点でした。ぜひ「このアルバムの良さはここでこう聴けば傑作だ」とかそういう意見を聞いてみたいです。オアシスのファンのサード以降のアルバムに対する評価とかリアクションとかは割と把握してるんですけど、ストロークスは見たことがないので、ガチガチのファンの人はファースト、セカンドより後のアルバムのことをどう思ってるのか凄く気になります。この評価は不当だという意見が在ればTwitterなどで待ってます。

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