10位「ディベイサー」ピクシーズ ”Debaser” Pixies 1989年
名盤「ドリトル」の一曲目を飾る代表曲。ピクシーズも80年代に発表した2枚のアルバムと一枚のEPでコンパクトながらも強力なポップナンバーを披露してきたので一曲に絞り込むのが大変でしたが、この曲にしました。
ベース、ギター、ドラム、リードギターと徐々に入ってくるイントロからして素晴らしいですし、『アンダルシアの犬』をモチーフにした奇妙な歌詞、ボーカル、ブラック・フランシスのブチ切れた咆哮や、ベースのキム・ディールのポップなコーラスワーク、手数の多いドタバタしたドラムとキャッチーで印象的なリードギター、ピクシーズの魅力が濃縮された3分間。
9位「ニューヨークの夢」 ザ・ポーグス ”Fairytale of New York” the Pogues 1987年
アイルランドの伝統的なケルト音楽とパンクの要素を合わせたバンド、ザ・ポーグスのヒット曲。
当時彼らのアルバムのプロデュースを手掛けていたスティーブ・リリーホワイトのパートナーだったカースティ・マッコールとのデュエット曲で、クリスマスの一夜のから回想が入り、ある夫婦の希望と挫折の物語が綴られるんですけど、歌の掛け合いがスリリングで実にドラマチックなんです。
夢が敗れてしまってなかなかままならない厳しい現実のなか、お互い罵りあってしまう夫婦がふと見せる信頼感みたいなものが描かれていて、思わず目頭が熱くなってしまう名曲です。
この曲は歌詞を読みながら聴いてもらいたいですね。
もしクリスマスソングで一曲だけ選べと言われたら迷わずこれを選びます。
8位「キス・アナザー・デイ・グッドバイ」デヴィッド・カウフマン&エリック・カブール “Kiss Another Day Goodbye” David Kauffman and Eric Caboor 1984年
LAベースのアシッド・フォークデュオによる、80年代とか全然関係ないタイムレスな雰囲気を放っている異様な曲。
アコースティックギターと歌だけで、あとはスライドギターとコーラスが入ってくるだけのものすごくシンプルな構成なんですけど、かすかに聞こえる揺蕩うようなスライドギター、リバーブの効いたギターサウンド、古いカセットテープのようなぼんやりとした音像のどこか諦めきったような歌唱、それらの醸し出す効果が、既に死んでしまっている人がそれと気づかずに歌っているようなこの世のものとは思えない雰囲気を放っています。
初めて聴いたときものすごい衝撃を受けました。歌詞の内容はふとした一日の描写であとどのぐらい同じような日々を過ごせるだとうか、というような内容なんですけど。
今回紹介する30曲の中ではワールド・ドミネーション・エンタープライズと同じぐらいマイナーな曲なんじゃないでしょうか。僕も知り合いの方に偶然教えてもらわなかったら一生聴かなかったと思います。
この曲はほぼアコースティックギターと唄だけの形で録音されたアルバム『Songs From Suicide Bridge』のなかの一曲。
7位「ジャスト・ライク・ハニー」ジーザス&メリーチェイン ”Just Like Honey” The Jesus And Mary Chain 1985年
ギターノイズに包まれた幻想的なサウンドはシューゲイズサウンドの青写真になり、そのサイケ感、陶酔感、シンプルな曲構成とコード進行などはストーン・ローゼズやセカンド・サマー・オブ・ラブにも影響を与えた超重要曲。
そんな事実を抜きにしてもかなり魅力的なギターポップソングであり、エヴァーグリーンなナンバーだと思います。ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」(The Ronettes “Be My Baby”)オマージュなイントロのドラム、ささやくように歌われる甘いメロディー、ギターのノイズによる音の壁。すべてが完璧な3分間のギターポップソング。
6位「ルール・ザ・ワールド」ティアーズ・フォー・フィアーズ ”Everybody Wants To Rule The World” Tears For Fears 1985年
イギリス出身のポップデュオによる全米1位、全英2位の80’sを代表するヒットソング。
シャッフルの心地よいリズム、包み込むようなシンセサウンドと柔らかなカート・スミスの歌声、すべてが極上のポップソングですね。そして忘れてはならないのが要所要所で印象的なフレージングをきかせるローランド・オーザバルのギタープレイです。
独特のもの悲しさとスケールの大きなサウンドスケープが魅力のこの曲ですが、歌詞のテーマもそんな広がりを持っています。
ニーナの「ロックバルーンは99」、オジー・オズボーンの「クレイジー・トレイン」など、冷戦や核戦争の恐怖が生み出したヒットソングが少なからずあるというのが80年代の特徴でもあり、この曲の歌詞もそのような背景があります。
The 1975が「If You’re Too Shy (Let Me Know)」でこの曲を下敷きにするなど、最近のポップシーンへの影響もあって、みすごせない一曲ですね。
5位「ダウンタウン・トレイン」トム・ウェイツ “Downtown Train” Tom Waits 1985年
全米3位となったロッド・スチュワートのカバーでも有名なトム・ウェイツの代表曲。
この曲はメロディーが美しい曲だとおもうんですけど、トム・ウェイツのドスを効かせた渋みのある歌唱がいいんですよね。もっとキレイに歌われていたら、もっと透き通った声質の人が歌ったらセンチメンタルになりすぎて、これほど「何度も聴いても飽きがない」なんてことはなかったと思います。ボブ・ディランやニール・ヤングにも共通するんですけど、ポップさと渋さのバランスが絶妙で、自分がこの先いくら年をとっても聴き続けられそうだなと、思わせてくれます。
Chris Spedding、Robert Quine、G. E. Smithと渋い面子ですけど、結構豪華なギタリストの共演があって、残念ながらだれがどのギターを弾いているかわからないんですけど、良い味を出してます。
誰もがもがきながら生活しているような都市生活のもの悲しさの中で歌われるラブソングというような歌詞もいいです。
Jean-Baptiste Mondinoによって撮影されたプロモーションビデオも名作ですので是非。
4位「ビザール・ラヴ・トライアングル」ニュー・オーダー “Bizarre Love Triangle” New Order 1986年
80年代に相当な数の名曲を生み出してきた彼らですから、どれか一曲を選ぶというのはかなり苦痛でした。
個人的にニュー・オーダーはかなり思い入れの強いバンドですし、1アーティスト一曲という縛りがなかったら4,5曲ぐらいランクインさせたかったぐらいです。
そんななか今回は「ビザール・ラヴ・トライアングル」を選出。彼らは「ブルー・マンデー」のようなダークなテイストも得意ですが、からっと晴れた日の清々しさを連想させるようなポップソングもまた得意なんですよね。この曲は後者の最たる物で、よく晴れた日に外で聴いたりしています。
ニュー・オーダーが提示し続けてきたロマンティシズムの完成形みたいな曲ですね。
3位「フォロー・ザ・リーダー」エリック B & ラキム “Follow the Leader” Eric B. & Rakim 1988年
地を這うような分厚いベースラインとサンプリングで生成されたEric Bによる緊張感あふれるリズムトラック。その上にラキムの、まるで言葉の芸術とでもいうべきスキルフルなラップがのり、ヒップホップの最小限のスタイルにして最良の形を示してしまった大名曲。
今のヒップホップに比べると飾り気が少なく大分無骨でとっつきにくい印象のある80年代のヒップホップですが、この曲はシンプルであるが故に無敵とでもいうべきかっこよさです。
ロックでいえはチャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」のような古典的名曲かと。
5分以上ある曲ですが、緊張感が途切れることなくずっと聴いていられるのは凄いです。
是非歌詞を見てラキムの流れるようなフロウを堪能しながら聴いてください。
2位「シー・バングス・ザ・ドラムス」ザ・ストーン・ローゼズ “She Bangs The Drums” The Stone Roses 1989年
当時のUKクラブカルチャーをバンドアンサンブルに落とし込んだ踊れるリズムにザ・バーズの様に美しいメロディ、ハーモニー、ギターを乗っけたのが彼らの音楽的な新しさ、革新性でした。
でも、音楽的に新しかったのと完成度が高かっただけじゃなくて、従来のロックが放っていたはずの「ハッタリや自信みたいな堂々としたもの」を彼らが取り戻したというのも非常に重要だったと思います。ハッタリの要素を極限まで強めたハッピー・マンデーズっていう猛者もいましたけど(笑)。
「アイ・ウォナ・ビー・アドアード」とかこの曲はそういうロックバンドとしての凄みや宣言のような物を叩きつけた曲でもあり、のちに出てくるオアシスのようなバンドにとって精神的な支柱になっていたと思います。
俺たちの時代だという宣言とローゼズのハッピーで自信に満ちたサウンドのバランスが一番見事な曲なのでこの曲を選びました。
The past was yours. But the future’s mine. You’re all out of time.
過去は君たちの物。けど未来は僕のだ。君は時代遅れなんだよ。
1位「ヘッドマスター・リチュアル」ザ・スミス ”The Headmaster Ritual” The Smiths 1985年
うっとりするような美しいメロディとコードワーク、ニューウェーブバンドらしい陰りとひねりと攻撃性、惨めったらしくもどこかユーモラスで攻撃的なモリッシーの詩、それらを支えるダンサブルなリズム隊。この様な一見相反する様な要素が同居しつつも、ギリギリのラインで調和している様な曲が他にあるでしょうか?
バンドアンサンブルの可能性と有効性を見せつけるような、スミス最良の部分がギュッと凝縮された恐ろしい1曲。
文句なしの1位です。
実はこの曲の良さに気づかせてくれたのはレディオヘッドが『イン・レインボウズ』の時期に公開していたカバーでして、そういう方も実は多いのでは。
まとめ
アルバムの時は実はそうでもなかったのですが、曲となると好きな曲が無数にありますので、なかなか30曲は厳しかったですね。100曲でも行けたと思います。
その分かなり絞り込んだんで、満足度と自信は結構あります。特に上位三曲はどれが一位になっても不満はないぐらい素晴らしい曲だと思っていますね。
「この曲は大好きだと思っていたのに、こうして他の曲と並べてみるとちょっと落ちるな」とか色々と発見があって面白かったですね。
アルバムランキングではランクインしなかったヒップホップが上位に数曲ランクインしました。前回のアルバムランキングでちゃんと取り扱いができなかったので、数曲入れられたのがうれしかったですけど、こんなに上位に来るとはおもっても見なかったです。
前のアルバムランキングで言及のあったデュラン・デュランは今回もランクインせず…。彼らのことはまたどこかで言及したいと思います。
またなんだかんだで自分はキャッチーな音楽が好きなんだということが明らかになりました(笑)。ということで割と万人におすすめできるリストにはなったと思います。自分ではもっとマニアックなリストにしたかったんですけどね…。
まあ個人的好み以外の要因として、80年代がやはりとびぬけてキャッチーな音楽が多かったということもあるんじゃないかなと思ってます。あと、やり始める前まではポストパンク的な曲がもっとランクインすると思ってて、記憶だと前衛的な物が割と80年代初頭に沢山あった気がしたんですけど、意外と79年までにパンク、ニューウェーブの先鋭的なものは出そろっていたりするんですよね。
最後に今回紹介した曲を全部詰め込んだプレイリストを作ったので、良かったらこれでまとめて聴いてみてください。