フェアーグラウンド・アトラクション (Fairground Attraction) のデビュー作、
『パーフェクト・キッス』(原題: The First Kiss of a Million Kisses)
をご存知でしょうか。
1988年に発表されたこの本作はそのアコースティックでやさしいサウンドと、まるでスタンダードナンバーのような優れた親しみやすいメロディであっという間にポピュラーになってしまったんですよね。
シンディ・ローパーのアルバムレビューでもいいましたが、優れたポップアルバムは、様々な感情を呼び起こしてくれます。
この『パーフェクト・キッス』もそんなアルバムでして、それが沢山の人に支持された理由だと思います。
穏やかでやさしい気持ちにしてくれる曲。
切なくて胸が張り裂けそうになる曲。
楽しくてウキウキするような曲。
色んな感情をかき立ててくれるような曲がいっぱい詰まっている名盤です。
今日はそんなフェアーグラウンド・アトラクションの『パーフェクト・キッス』を、詳しくご紹介していきたいと思います。
1. フェアーグラウンド・アトラクションってどんなバンド?
フェアーグラウンド・アトラクションはイギリスのフォーク、ソフトロックバンドです。
1988年にシングル「パーフェクト」”Perfect” でデビューでデビューしました。
この曲はすぐにヒットし、なんとイギリスではいきなり1位を記録。
当時は電子楽器を使ったキラキラとしたポップスやメタルなどが流行っていましたから、フェアーグラウンド・アトラクションのアコースティックなサウンドは逆に新鮮でした。
当時の日本版のコピーも『このテクノ時代に、生音(アコースティック)』でした。
メンバーを紹介します。
ボーカルはエディ・リーダー(Eddi Reader)。
エディってなんとなく男性を想像してしまいますが、曲を聴いてお判りの通り女性です。
ギターはマーク・E・ネヴィン(Mark E.Nevin)。
殆どの曲を作詞・作曲しています。
ドラムはロイ・ドッズ(Roy Dodds)。
そして本来ベースに当たるポジションを担当しているのが、サイモン・エドワーズ(Simon Edwards)で、ギタロンというメキシコの民族楽器を担当しています。
ギタロンはギター同様6本の弦の楽器なのですが、ギターよりも低い音がでて、サイズも大きい楽器です。
このギタロンがフェアーグラウンドアトラクションのサウンドの、隠し味になっています。
2. 『パーフェクト・キッス』のここがすごい
それでは早速『パーフェクト・キッス』の魅力について語っていきましょう。このアルバムには大きく3つの優れた点があります。
アルバムとしてのまとまり、構成力がすごい
今の時代、もうストリーミングで音楽を聴くことが多いかと思います。
そうでない方でもパソコンにCDを取り込んだり、音楽をダウンロードして、スマホや携帯音楽プレイヤーでそれぞれ好きな曲を聴くと言う形でアルバムごとに曲を聴く機会が減っているのではないでしょうか。
しかしもしこのアルバムを聞く機会があるとしたらぜひいちどは最初から最後までじっくりと時間をとって聞いていただきたい。
もちろん聴き方は自由ですが。
捨て曲なしの全曲名曲で、優れた短編小説集のような味わいのあるアルバムです。
また曲の種類もいくつかバリエーションあって、それがバランスよく配置されているので、1つのアルバムの流れとして、とても見事に流れてきます。
具体的にはこのアルバムには大きく三種類ぐらいの曲がはいっています。
- ジャズのスタンダードナンバーっぽい曲
- 3拍子の落ち着いた曲
- ダークな雰囲気の曲
この三種類の曲がバランスよく配置されていて、見事な構成になっているんですね。
リラックスできる暖かみのある曲、サウンドがいい
当時フェアーグラウンド・アトラクションの最大の特徴はその曲調、サウンドでした。
前述した通り、当時は電子楽器をメインとした急性なアップテンポの曲が流行っていました。
ところが彼らはそんな時代にあえてアコースティックな、ある意味古めかしいサウンドを持ち込んでヒットさせたのです。
当時からアルバムジャケットのセピアの雰囲気のような、アンティークなサウンドだったんですね。
しかし、だからこそ、かえって今聴いても古びない心地よさがあります。
曲も普通ポップスで一般的な四拍子の曲ではなく、ゆったりとした三拍子の曲が多いです。
実にアルバム14曲中8曲が三拍子の曲です。
そのサウンドもただアコースティック楽器を使用しただけでなく、ベースギターの代わりにギタロンを使用するなどユニークです。
物語性の高い歌詞
一曲一曲ストーリー仕立てになっていて、歌詞を読みながら聴いても結構楽しいんですよね。英語ネイティブならさらに楽しめたことでしょう。
登場人物に命を吹き込むのが巧みでキャラが立っています。
以上が本作の優れた特徴です。
それでは具体的に代表的な曲をいくつかピックアップして見ていきましょう。
3. 曲紹介
デビューシングルにしてヒット曲
- 「パーフェクト」”Perfect”
どこかロカビリーっぽい曲調で、1950年代の古き良きポップスのような曲。
楽しそうに自在に跳ね回るエディーのボーカルがすてきです。
3連符のリズムをところどころで活かしてアクセントにしています。
アルバムの邦題『パーフェクト・キッス』は一番有名なこの曲のタイトルと、原題の合いの子で生まれたものでしょう。
短編小説の様な凝った歌詞の曲
- 「フェアーグラウンド・アトラクション」 “Fairground Attraction”
バンド名と同じ曲名。
フェアーグラウンドとは移動式遊園地のことで、日本ではあまりなじみがないかと思いますが、イギリスでは適当な空き地に一定期間小規模の遊園地が立つようです。
イギリスの映画を、みていますとたまに出てきたりしますね。
主人公の女性が移動式遊園地の中をさまよっているという設定の歌なのですが、歌の最後に主人公がどのような状態にあるかわかる様になっており、短編小説の様な凝った歌詞になってます。
自由という孤独を歌う
- 風が知ってる私の名前 “The Wind Knows My Name”
これは本作で一番好きな曲ですね。
この記事でも雨の日に聴きたい曲として取り上げました。
自分の生き方を貫きたい女性が恋人との別れを選ぶという曲です。
アルバムで1番、ドラマチックで、エモーショナルな歌唱が聴けます。
人生とはどのようなものか、思わず振り返って感傷にひたってしまう様な曲です。
少し長めのエンディング部分が余韻を与えてくれるような曲ですね。
スタンダードの風格を伴った軽快で洒落た曲
- 「ムーン・イズ・マイン」”The Moon Is Mine”
昔のジャズのスタンダードみたいな曲。
こういう王道感のある曲があるとアルバムの名盤感がUPしますね。
終わり方も昔のスタンダードなポップスっぽい小洒落たエンディングになっています。
なにもポジティブになれる様な状況ではないけれど、「月は私のもの」だから平気と、歌っています。
子どもの目線から見た戦争の曲
- 「駅前通りの子」 “Station Street”
子供の目から見た戦争がテーマの曲。
戦争に関する曲ですが、直接戦闘などの描写があるわけではありません。
主人公の少女は戦争のことをむしろあんまり理解していない様子です。
しかし、それで彼女になんの影響もないかと言えば全くそうではなく、大人とは違ったように戦争のダメージを受けている。
戦争が日常に落とす暗い影についてそのように巧みに描いた曲。
エディ・リーダーによる曲
- ウィスパーズ “Whispers”
唯一エディ・リーダーによるペンの曲。
かといってマーク作曲の他の曲と全く毛色が違うわけではなく、全然違和感ありません。
ゆったりとしたテンポの曲でなんとなくベニスの運河を船で、進んでいるような情景が浮かんできます。
初々しいカップルを描いた名曲
- ハレルヤ “Allelujah”
本作のベストトラックの一つ。
アルバムタイトルの The First Kiss of a Million Kisses はこの曲の中のフレーズから来ています。
お互い好きあっているのになかなか話しかけられず、進展しなかった二人。
そんな二人の恋が今開花する…。
そんな恋のストーリーが、女性側からの目線で語られていきます。
最初はもうじき冬がこようとしている街の描写から始まり、二人の日常が描かれます。
実に映画的な部分ですね。
顔なじみの男女が出てきてこの二人が主人公。
しかし二人はシャイでなかなかはなしかけられないんですよ。
この時点でニヤニヤが止まりませんね。
しかしサビではその想いのたけを開放させようっていうことを歌ってます。
その喜びが「ハレルヤ!」(Alleluja)なんですね。
そして最後はタイトルフレーズ、The First Kiss of a Million Kisses、これから交わされるであろう100万回(沢山の)キスのこれが最初のキスだっていっています。
これからずっと続いて行く関係の最初なんだってことを表していますが、「ふたりはずっと一緒だよ」的な直接的な物言いじゃないのがいいですよね。
まとめ
いかがだったでしょうか。
本作の魅力が十二分に伝わっていただければ幸いです。
物語性のある歌詞に、優れたメロディ、演奏技術、この三つが備わった名盤です。
自分で曲を作るという方には、「恋愛の歌を書きたいけれど、どういう風に歌詞を書けば陳腐にならないか」ということを学べるアルバムでもあります。
しかしこれだけすばらしいアルバムを残したにもかかわらず、フェアーグラウンド・アトラクションは本作一枚のみで解散してしまいます。
驚くべきことに日本盤のライナノーツで、ピーター・バラカン氏が、すぐに解散してしまうんではないかと懸念していて、見事に的中してしまいましたね。
残念ながら一瞬の輝きで消えてしまったバンドですが、こんなにもステキな傑作を遺してくれました。
ボーカルのエディ・リーダーはその後ソロ歌手として活動、いくつかアルバムを発表し、現在でも活動を続けています。