2023年12月、24年1月、2月、3月のおすすめ新譜/旧譜

年間ベストの季節ですが、あまりにも2023年はリアルタイムの音楽を真面目に追っかけてこなかったので、まあ23年は年間ベスト記事はなしということで。その代わりといってはなんですが、毎年年末に募集している今年よかった3曲を選んでもらうというコラボプレイリストで個人的に良かった曲を今回はメインで紹介していきたいと思います。

前回から四か月がたちました。ということで今更23年の年間ベストという時期でもないので、普通にこの間に聴いていたものを紹介します。ちなみに上記で触れられてるプレイリストはこちらです。

2023年のまとめとしても面白いものになっていると思いますので是非。

 「彼方高さから躰放ったあなた」Blume popo

といいつつもいきなり例のプレイリストで知った曲。母音が「あ」でできた言葉だけを並べて作った歌詞の響きがやはり気持ちいい。それでいて言葉遊びに終始した支離滅裂な歌詞ではなく、ちゃんとストーリーや情景が浮かぶのが良かった。ということでこの曲、韻を踏みまくっているわけだが、ここまで突き詰めると、どろどろに具材が解けたシチューみたいな味わいになってしまい折角の歌詞が聞き取れないときもあった。というわけでもうちょっと引き算があってもよかった気がしないでもないが、試みとしては面白いし、やはり何度も聴いてしまった。

「Liquid Mind」Uilou

これも件のプレイリストで知った曲。PinkPantheressなどに代表されるドラムンベースベッドルームポップとの組み合わせという最近の流れの一つだと思うが、リズムの攻撃性と浮遊感、酩酊感のあるサウンドの組み合わせはやはり気持ちがいい。Uilouの場合これに声優ポップと言えそうなぐらいキャラ立ちした声質による歌唱と、その声質にはややそぐわない男性の恋愛に対する不器用さ、いい加減さをなじるような歌詞の組み合わせがまた一つアクセントになっている。プレイタイムが極端に短いこともあって何度も聴いてしまった。Uilouは2022年4月より活動を開始した「june-chan(vo.)AFAMoo(trackmaker)からなる2人組ダンスポップユニット」ということで、まだ始めたばかりなので、これからが楽しみ。

「太陽ポカポカで草」なみぐる feat.星界 ずんだもん

こちらも例のプレイリストから。恥ずかしながら詳しいふりをすることが困難なぐらいボカロは全然聴いてないし、ニコニコを通ってないからなのか、なかなか聴く気になれないのでこのプレイリストがなかったらまず聴いてなかったと思う。スティーヴィー・ワンダーの「Sir Duke」のようなR&B、Jazz、Soulをいい塩梅でミックスさせたただものではないアレンジセンスが光る良質のポップスに仕上がっていて最初聴いた時はっきり言ってぶっ飛んだ。めちゃくちゃしっかりとした曲なのにネットスラング、しかも若干古めの、をちりばめたのも面白い。とにかくアレンジが気持ちよすぎて何度も聴いてしまった。名曲。

『It’s Immaterial』Black Marble

NY、ブルックリン出身のシンセポッププロジェクトによる2016発表のセカンドアルバム。当初はデュオだったらしいが、本作からChris Stewartのソロプロジェクトになった。ダークな雰囲気だが、同時にシンセをベースとしてポップで、ベースがパンク的なことから、New Orderライクと形容されることが多いみたいだが、そのダークさはJoy Divisionがそのまま活動を続けていたらこうなっていたんじゃないか、と形容した方がしっくりくる気がする。New Orderに似ているといっても本当に活動の最初期ぐらいの雰囲気に似ているぐらいでやはりJoy Divisionといいたい。The Drumsなどにも通じる雰囲気があるので好きな人は是非聴いてもらいたい。ポップでドリーミーなんだけどどこかメランコリックで憂鬱で脱力感がある音楽を求めているなら聴くしかない。最後「Collene」というあたたかな日差しをおもわせる明るい曲で終わるのも良かった。

『Suntub』ML Buch

エムエル・ブーフと読むらしい。デンマークのミュージシャンでこれがセカンドアルバムということ。これも23年の年間ベストを何とかひねり出そうとして色々と聴いてきたなかで見つけた一枚。僕のX(旧:Twitter)のTLでも結構評判が良かった。ジャケ写からわかる通りギタリストなんだけど、ロック的なイディオムはあまりなく、ジャンルわけするならニューエイジギターポップといったところか。ギターも民俗音楽みたいな文法でならされていたりする。丁度これを聴いていたときにクローネンバーグ『クラッシュ』を見ていて、そのスコアもギターのみで繰り広げられるダークなインダストリアルロックで、ML Buchと陰と陽みたいな感じで偶然にも対になっていた。興味がある方はそちらもチェックしてもらいたい。

『Your Favorite Things』柴田聡子

こちらもXのタイムラインでめちゃくちゃ盛り上がっていた一枚。それこそ去年でたceroの『e.o.』と同じぐらい盛り上がっていて、早くから邦楽史に残る名盤的な扱いをされている。80年代ぐらいのウィスキーか服かなんかの広告みたいなイメージのジャケ写からして名盤にふさわしいオーラを放っている。柴田聡子は音楽好きの間では前々からかなり注目されていたSSWではあるけれども、今作では、いままで反応していなかった層の音楽マニアが反応、絶賛していて、批評的なブレイクスルーが起きているとおもう。

今までと明らかに違うのは歌い方で、全編で基本ささやくような歌い方をしており、サウンドと一体になっていて非常に心地がいい。音楽的には今まで以上にきめ細かで音像にこだわった様な作りになっていて、ダンサブルな曲も多く、アンビエントを取り入れたような内省的なサウンドスケープも相まって、生バンドの演奏なんだけど、オルタナティブR&Bと通じるところも多い(この音像の変化は岡田拓郎との共同プロデュースに因るところが多いと思われる)。内省的なサウンドスケープといってもそれが暗さとか陰りとかにはつながらず、このジャケ写みたいな落ち着いた明るさになっていて、それは歌詞にちりばめられている彼女らしいユーモアによるところが多い。しかし、この歌唱法によって歌詞が聞き取りにくくなっていて、歌詞が良いアーティストだけに、その点は個人的には残念だった。ただ、歌詞を見てみると歌詞は相変わらずよいどころかさらに深化しているし、同じ作風を次のアルバムでも展開しなさそうなので、いろんな意味で、次回作がめちゃくちゃ楽しみだし、本作がとんでもない名盤であるのは間違いない。

このアルバムを聴いて真っ先に、加藤和彦『あの頃、マリー・ローランサン』を思い浮かべたので、本作が好きな人は是非聴いてもらいたい。バラエティー豊かなのに全編に共通のトーンがあって一貫性があり、クールでお洒落なんだけどユーモラスでもあるところが似通っていると思う。

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