ここのところグレイプバイン関連の企画ものばかりやっていまして、それもあってバインばっかり聴いています。
打ち込みの電子音楽やヒップホップ、アンビエントがかったR&Bよりのポップミュージックばっかり最近聴いてきてて、その反動もあるのか、生のバンドサウンドの響きの気持ちよさだったり、セブンスを使ったにごったロックっぽいコード使いが自分のツボにはまっているということもありますけど、とにかく異常なぐらい聴いています。
ということでグレイプバイン総選挙2022に提出した30曲をベースに、投票結果を受けてまた自分のランキングを見直したものを発表していきたいと思います。
1つのアーティストの曲で、本当に自分が熱をもって語れて、かつ何度も聴いても飽きない様な曲を選ぶとなると、相当好きなアーティストでも15曲ぐらいで息切れしてくるものですが、グレイプバインはさすがですね。全然30曲選べます。
それではどうぞ。
30位「大脳機能日」
エレピが最高なファンキーなロックナンバー。タイトルからして意味が分からない、桑田佳祐もびっくりの「英語に聞こえる日本語」を散りばめまくった一曲。元ネタはレッド・ツェッペリンの「Candy Store Rock」。元ネタありきの曲は他の日本のロックバンドにもあるが、大抵は真顔でやってるのと、開き直って笑いに転じてるのものと二分される気がする。しかし、バインの場合両者のバランスが取れていてちゃんとカッコいいから良い。好き。
29位「ポリゴンのクライスト」
シングル「放浪フリーク」のB面曲のドストレートなロックナンバー。これも英語に聞こえる日本語節がさく裂した一曲で歌詞カード見ないと何を言っているか全くわからない。こういう荒々しいロック曲がキャリア最初期とかではなく、アルバム3枚目以降から多くなっていくのも面白い。普通は逆。
28位「阿」
最新作より。『Sing』収録の「Core」の進化系ともいえる、レディオヘッド「National Anthem」みのあるナンバー。コロナ過を経てより歌詞のイメージが「Core」先鋭化し、さらにかっこよくなっているのでこちらを選出。
27位「SPF」
高野寛をプロデューサーに迎えて制作された爽やかな一曲。バインらしい光があふれるとある日の午後を切り取ったような鮮やかな一曲。
26位「君を待つ間」
イントロのベースラインが印象的な初期の代表曲。初めて聴いた時歌ものなのにバンドサウンドもしっかりしていると驚き、さらに作曲者がドラムで二重に驚いたという思い出が……。今聴いてもめちゃくちゃ良い曲。
25位「指先」
ミスチルっぽいとたまに言われるグレイプバインですが、個人的にはあまりピンとこない。けど、これはミスチルっぽい気もする。ただ、ミスチルより大げさでもダイナミックでもなく、渋さがあるのでヒットしてもおかしくない様でいてヒットしないんだな……。あまりこういうメロトロンの使いかたを聴いたことがなかったので、個人的にはびっくりさせられた一曲。
24位「Scarlet A」
高野寛プロデュース曲。バンジョーをフィーチャーしているが、カントリー的演出というよりは音のテクスチャーを利用し、同時になってるシンセっぽい面白い使い方をしていて、それが何とも心地よくて癖になる一曲。
23位「Reason」
コード感と転調によって独特の響きを放つ佳曲。誰もに響くような大衆性を有した曲ではないが、一度ハマると癖になってずっと聴いてしまうまさにバインみたいな曲。こういう現実と非現実の間で揺蕩うような音像にやけにリアリスティックで、けれど達観したような歌詞がのっかって、何とも言えない感慨がもたらされるのも大きな魅力。
22位「ソープオペラ」
うねうねした特徴的なシンセサウンドや打ち込みのリズムと、ニューエイジみたいなシンセのシークエンスがバンドサウンドが同居する一曲。意欲作『Burning Tree』以降の試みが結実した結果だといえる。あれだけ濃密なギターワークを売りにしていた初期の姿からは全く想像できないが、絶妙に調和していて凄い。ちゃんとギターの見せ場も作っていて、決してバンドサウンドをおろそかにしていないところもいい。
21位「永遠の隙間」
病気によって脱退してしまったベースの西原誠作曲。バイン特有のロックと歌物の融合をベースに、作曲者の趣味が出たブラックミュージックっぽさと、ホッピー神山の一筋縄ではいかないストリングアレンジがうまく混ぜあわってなんとも言えない味わいがある一曲。ベースラインが本当にカッコいいので脱退は今考えても非常に残念。
20位「ねずみ浄土」
これだけ活動期間が長いバンドにありがちだが、ファンが新境地と思っても外野からするとマンネリズムの枠内だったりすることがある。しかし、バインはそんなことは殆どなく、これなんか明らかな新境地で『Lifetime』の頃しかしらない人に是非とも聴いてもらいたい一曲。今までブラックミュージックの要素を取り入れた曲はバインに何曲もあったが、ここまで異様な形のは今までなかった。
19位「MAWATA」
10代的80年代シティポップ解釈をグレイプバインがなぞった曲。こういうのも余裕でできちゃうよ的な一曲なんだけど、シリアスな作風の中にもちょととしたホラー要素やユーモア(808、タイトル)で彼ら風のテイストにきっちり仕上げているのは流石。普通に良い曲。好き。
18位「光について」
重層的なギターアレンジに包まれた切ないメロディーラインが唯一無二の味わいをもたらす初期代表曲。今聴いてもやはりすごい。これにポニーキャニオン末期とVictor期の変態ギターが加わっていたらもっと凄いことになっていたと思う。
17位「インダストリアル」
スティービー・ワンダーみたいな転調が心地いバイン流ソウルチューン。ギターサウンド偏重のアレンジか彼ららしくて、モノマネや単なるなぞりで終わっていないところが好き。曲調は穏やかなのにやけに辛らつな歌詞もらしい。
16位「遠くの君へ」
ファーストアルバム収録、ギターの西川弘剛作曲のナンバー。濃厚なバンドサウンドと共に渋みのあるメロディで進んでいく曲だが、サビの最後の方にカタルシスがある。
15位「真昼の子供たち」
ピアノとメロトロンをフィーチャーしたナンバー。彼ららしい午後の昼下がり感がある中期代表作。音にピッタリの16㎜で撮影されたPVも曲の雰囲気にあっている。
14位「スカイライン」
トレインビート、スライドギターといったカントリー的な記号は使いつつも、アメリカの田舎というよりはスイスの高原を想起させるような、何故か広々とした爽やかさみたいなものが際立つナンバー。言葉遊びがふんだんに発揮された一曲でもあり、それはそれで楽しいんだけど、歌詞が共感しやすいシリアスな内容だったらもうちょっと人気があったんじゃないかと思う一曲。
13位「ナツノヒカリ」
空間系エフェクトやトリッキーな動きを見せるベースラインがうだるような暑さの演出として機能しているニューウェーブサウンドのサマーチューン。彼らが季節感の演出に優れていることの証左となる一曲。「それはずるーいよね」のフレーズが一時期頭から離れなかった。中毒性アリ。
12位「アンチ・ハレルヤ」
ジャキジャキしたギターのカッティングや、軽快なキーボード、コミカルなベースライン、ユーモラスな歌詞がとにかく心地よい曲。こういう楽しくてカッコいい曲ありそうでなかなかないから貴重。
11位「RAKUEN」
『MISOGI EP』から、イントロのかっこいいドラムやスライドギターが印象的な一曲。ディストピア的世界を描いて見せたシリアスさがあり、このテーマはアルバムとして『Babel Babel』で拡大されていく。
10位「Sing」
レディオヘッドの「No Surprises」のように、鉄琴をフィーチャーし、音響的にも今までとは違ったアプローチを見せる一曲。のびやかなボーカルの録音も心地がよく、田中和将というボーカリストの違う一面がみれる。結局こういう曲はこれだけで終わってしまったので、もうちょっとこの路線の曲を聴いてみたい……。
9位「吹曝しのシェヴィ」
アルバム未収録のシングルB面収録だが、隠れた名曲としてファンにも人気の一作。エドワード・ホッパーの「ナイトホークス」に描かれるような夜の都会を彷徨う主人公の内面が風景描写を通してリリカルに描かれた名曲。夜散歩しながら良く聴いた。
8位「公園まで」
毎年年末に必ず聴きたくなる寒い時期の季節感をとらえたキャッチーな一曲。一番サビ終わりと二番頭の間に入るツリーチャイムにもうっとり。自分の子供に向けたラブソング。好き。
7位「すべてのありふれた光」
新たな代表曲ともいえる感動的なナンバー。間奏部分で転調したり、3連のタンバリンが入ったり、ただでは終わらない彼ららしさもある。印象的なオープニングフレーズといい、ソロといいギターが名演。内容的には「公園にて」の続編ともいえる。
6位「EAST OF THE SUN」
『愚かな者の語ること』以降のギターでの実験的要素やレコード会社移籍以降の表現の幅の広がりが、高野寛とのコラボを経てポップに昇華された一曲。ここら辺のさじ加減は是非他のバンドもどんどんパクって欲しいところ。ドローンを使った長まわしのPVも良い出来で、バインの中で一番好き。
5位「目覚ましはいつも鳴り止まない」
田中和将作曲のソウルチューン。同時期に発表された「ねずみ浄土」の方がより実験的で批評的に評価されるべきかと思うが、個人的にはギターリフの気持ちよさがぴか一なこちらが好み。コロナ禍を受けた批判性の高い歌詞もスティービー・ワンダーやマービン・ゲイ、カーティス・メイフィールドなどの精神(ソウル)と呼応するようで感動的。
4位「鳥」
デビューアルバムの一曲目の濃密なギターロック。勢いに任せるものでもなく、どっしり構えたグルービーな演奏になっている。Bメロ部分のドラムのフレーズがカッコいい。日本語の語感の面白さや気持ちよさをさりげなく利用しているところもポイントが高い。
3位「Darlin’ from hell」
不穏な機械的な装飾音を織り交ぜつつもフォークロック調で緩やかに始まり、やがて放り投げだされるような開放的なサビ部分でクライマックスに達するという、バインにしかないカタルシスを感じさせる一曲。何を言っているか自分でもよくわかんないけど、この曲はすげえのよ。
2位「放浪フリーク」
ギターの西川弘剛作曲のキャッチーで開放的なロックチューン。かつてインタビューでメンバーの田中さん自ら「10割打者、天才」と評していたのも納得の大名曲。中期で一曲選べと言われたらもうこれで決まり。
1位「SUN」
午後の木漏れ日のなかでまどろんでいるような穏やかさのあるAメロ部分と、ラウドで激しいシャウトを伴う荒々しいロックが展開されるサビ部分と、彼らが得意とするサウンドの両極端が一曲で味わえる贅沢な一品。ピクシーズ発、ニルヴァーナ、レディオヘッド、スマッシング・パンプキンズ経由の「静と動」の構造だが、同類の代表曲と並べてもそん色ない出来といっても過言ではない。好き。
いや、それらと比べると、はったり感や大げさなテーマ、得体のしれない凄みがないので、多少の物足りなさは正直ある。しかし、
何度聞いても不思議と飽きない地味な良さがある。
それがグレイプバインの特徴でもあり、飽きがこない要因だと思う。
好き。