ストーンズのスゴイ曲は「不完全」。
どの時期のストーンズが好きかというのは、当然色々と意見があると思います。が、彼らが創作意欲に置いてピークだった時期、所謂全盛期は『ベガーズ・バンケット』(Beggars Banquet)から『メインストリートのならず者』(Exile on Main St.)が発表された1968から1972年までの間であることにあまり異論はないかと思います。
この時期はジミー・ミラーというプロデューサーと仕事し、創設メンバーだったブライアン・ジョーンズが抜け、ミック・テイラーというギタリストが加入した時期でした。
そして、その時期に発表された彼らの鬼気迫る「凄い曲」は、実は「不完全」であり、そして「不完全であるがゆえに完璧」なんです。
今回はそういう話をしたいと思ってるんですけど、正直何をいってるかさっぱりですよね。
順に説明していきます。
「Street Fighting Man」
「Street fighting man」というストーンズを代表する一曲があります。
ちょうどこの「全盛期」の始まりともいえる、『ベガーズ・バンケット』収録の曲です。
アコースティックギターの激しいストロークと扇情的なスネアドラムが鳴り響いく、非常に高揚感のある曲です。確かに凄いんだけれど、「何かがもの足りない」曲なんですよね。抑揚と高揚感はあるのだけれど、感動させるようなわかりやすいドラマチックな展開ではないんですね。むしろ曲そのものはそっけないぐらいシンプル。
試しにアコースティックギターでこの曲を弾き語りしてみたらわかると思います。あんまり楽しくないんですよね。おなじストーンズでも「Angie」とかは曲自体がしっかりしているので弾き語り楽しいんですけど。
じゃあ実は駄曲なのかというと全然そうではなく、オーバーダブされた分厚いアコギのサウンド、ピアノ、シタール、ミック・ジャガーの掛け声などの装飾が、「凄えこと起きてんぞ」感を壮大に演出しているおかげで曲自体は本当は中途半端で不完全なんだけど、返ってそれが終わりのない期待感を体現し名曲になっているんです。
そしてこの「終わりのない期待感」こそがこの時期のストーンズしか持ち得ない魔力だったのかなと思います。
ストーンズの「不完全な完全さ」を、説明するに良い例をもう一曲あります。
『メインストリートのならず者』という名盤のオープニング曲、「ロックス・オフ」。 これがまた不完全で完璧な曲なんです。
まずは聴いていただきましょう。
Rocks Off
いかがでしたでしょうか。この曲、本当にカッコいいロックンロールの曲ですね。ついつい何度も聴いてしまいます。しかし、なぜか聴くたびになぜか不満足感があります。
Rocks offはいわゆるBメロ部分までは徐々にエスカレートしていく様に盛り上げてくれる曲です。Bメロ部分もこの先があるかの様な盛り上げ方。にもかかわらず、テンションが一定のまま、サビに当たる部分はBメロのテンションを維持したまま、投げ出された様に言葉が発せられて、また元に戻るんです。
勘違いしないで欲しいのは、AメロBメロがあってサビがある所謂J-Pop的な構成が至高であり、正しいと言ってるわけではないということです。ヴァース(Aメロ)、コーラス(サビ)の繰り返しだけできっちり盛り上げ切って回収する曲もあります。洋楽の多くがそうです。
ところがこの曲はそうではありません。AメロBメロという表現をあえて使ったのは、盛り上がったまま投げ出されてしまった状態がまるでサビ不在の様に聴こえるからです。この構造はStreet fighting manともよく似ています。もうひと展開更に盛り上がりそうなのにそこにはなかなか行かず、そのまま曲は終わってしまう。
比べる対象が間違ってると言われそうですが、80年代にヒットチャートを賑わせたバンド、デフ・レパードやボン・ジョビなら絶対にそんな事はしません。例えばデフ・レパードの、「Photograph」という名曲があります。 ちょっと聴いて下さい。
めちゃくちゃポップでしっかり盛り上げて満足させてくれる曲ですよね。
けど一番キャッチーな Photograph〜I don’t want you〜 からのサビがなかったらどうでしょう。
ちょっと想像して見て欲しいです。
そしてボン・ジョビの超定番のこの曲…
サビからのwowー以下が無かったらどうでしょう。
先の二曲、サビが無かったら、盛り上げるだけ盛り上げておいてなに?ってなるし、凄くモヤモヤが残ると思います。
極端な例でしたが、「Street fighting man」や「Rocks off」って本来そんな感じの中途半端さがあり、モヤモヤが残る曲なのです。
ただストーンズの場合、その中途半端さを感じさせない勢いがあります。
そしてさっきも書きましたが、その中途半端さ、未消化感、この先にもまだ何かありそうな感じを与えつつ、テンションを維持していく感じが、ストーンズの優れたところであり、消費しきれない魅力だとおもうんですよね。
つまりその先にある理想的な何かへの憧れを抱かせ続けるロマンチックな構造がここにはあるんです。
ただ、それが成り立つのは奇跡的なバランスであり、意外にも厚い音の層、スタジオワークの功績です。
ですので素人が最小単位の人数のバンドでコピーするとショボく聴こえてしまいますし、これらの曲はビートルズのそれと違ってギター一本で弾き語っても音源以上に楽しくなる事はあまりないんじゃないでしょうか。
この時期に発表されたライブ盤『Get Yer Ya Ya’s Out!』を初めて聴いた時のコレジャナイ感は、ストーンズが優れたスタジオアレンジを施しながらもそうじゃなく見せる天才だからだとおもいます。アレンジによって巧みに隠された楽曲自体の素朴さがライブだとむき出しになってしまうからです。
ストーンズのミック・テイラー期の所謂「神がかった名曲群」は驚くべき事に殆どこの法則に当てはまると思います。
ではこの時期を代表する超名曲、『ベガーズ・バンケット』の次のアルバム『レット・イット・ブリード』(Let It Bleed)に収録されている「Gimme Shelter」を聴いてみましょう。
「Gimme Shelter」
不穏なギターのイントロだけでもかなりの期待感がありますが、ギロやコーラス、ピアノで更に重層的に畳み掛けてくるんですよね。ドラムが入って歌が入り、ここまでは本当に完璧。これほどまでに不穏な雰囲気を盛り立てる曲をしらないです。事実沢山の映画のそういう場面で使われていて、「ギミー・シェルター」使われすぎ問題として揶揄されてます(笑)。
しかしAメロ(ヴァース)が終わってサビらしきところ、コーラス(war, children~)に突入するんですけど、どうもイントロやAメロの期待感以上のものは(個人的感想かもしれないが)得られないですよね。けどこの曲はそういうものは出ずにまたヴァースとコーラスが繰り返されて、フェイドアウトで消化不良のまま終わります。
唯一期待以上の盛り上がりを見せるのが、メリー・クレイトン(Merry Clayton)が歌詞をなぞって悲痛なシャウトを聞かせるところなんですけど、その盛り上がりも曲自体の強度によるものではなく、アレンジの妙、メリー・クレイトンの凄みによってもたらされます。
だが前述した通りそれでいいんですよね。予兆や期待感を最大限に持たせるのは成功してるし、ストーンズはブルーズ(や黒人音楽)って音楽構造をどれだけ拡大解釈して凄いものが作れるかって実験をしてた様なバンドでもあってあえてその枠を踏み越えない様にしていたのかもしれないです。
まとめ
「Angie」とか「Ruby Tuesday」とかは、今回例に出したストーンズの代表曲よりも、曲そのものとしてはしっかりしていて、遥かに上等なんだけど、ほかの人が歌ってもそれなりに歌えちゃうし、場合によっては本人超えもあるんですよね。
しかし、今回例にだした、「Rocks off」とか「Street fighting man」とか「gimme Shelter 」はもう本人すら超え難い様な壁になっているとおもいます。
なんでその不器用感とヤバいアレンジのいい感じのミックスこそが全盛期のストーンズのえげつないやばさなんじゃないかなと。
Led Zeppelinも違う種類のマジックがあるけど遥かに巧みで、その巧みさ故に実用的だけどストーンズ程のロマンティシズムは感じないですね。
まあ、ツェッペリンの巧みさとストーンズの強みである「期待感」とマジック、ボン・ジョビ、デフ・レパード的な盛り上がりを全て兼ね備えた、ザ・フーっていうとんでもない化け物もいるんですけど……。