だんだんと1位に近づいてきました。このページでは40位から20位までの紹介です。
40位から31位の10枚は確かな力を持つ「歌」を多く含んだアルバムが並んだなという印象です。
また同一アーティストの作品がこの10枚の中に2枚もランクインしていますね。
40位 スピッツ『ハチミツ』 1995年
日本のチャートでセールスとクオリティが珍しく一致した幸運な1枚。多くの人がスピッツと聞いて連想する音の桃源郷はここにあるのではないでしょうか。聴いてる間このジャケットの様な明るくて優しい場所に連れて行かれる名盤。大ヒットシングル「ロビンソン」収録。
このアルバムについての詳しい解説は、アルバムを丸々とりあげたこの記事で詳しくかいていますので、こちらを見てみてください。
39位 Galileo Galilei『PORTAL』2012年
5人編成になり、エレクトロ・ポップ、ドリーム・ポップの新規要素を取り入れた2枚目。元々得意としていたバンドアンサンブルと新規要素がいい感じに融合した名盤。
ロマンティックでドリーミーな世界が好きな人へすすめたい1枚。
おすすめの曲
「さよならフロンティア」TBS・MBS系ドラマ『荒川アンダー ザ ブリッジ』主題歌。ソニーからデビューしたこともあってなのかガリレオはタイアップなどの露出に非常に恵まれたバンドでした。電子楽器とバンドの組み合わせ方が適度で良い感じです。歌詞のテーマは「ハマナスの花」と共通点があると思います、こっちはもっと詩的にぼかしていますね。
「明日へ」こういう何となく使命感を感じさせる曲が好きですね。『機動戦士ガンダムAGE』主題歌。バンドのダイナミックさとデジタルの気持ち良さが上手く混ざったダンサブルなナンバー。ガリレオはバンドとしての下地がしっかりしてるからどんな要素を取り入れても様になります。
「青い栞」TVアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の主題歌。アルバムの中でこの曲だけ頭一つ抜けている、そんな名曲。くるりの「ばらの花」を連想するようなミドルテンポの淡々としつつも情熱的なナンバー。アニメとの距離感が良いですね。リンクさせて聴くことも出来るし、全く切り離して聴くこともできます。
38位 PUNPEE 『MODERN TIMES』 2017年
第一線を走るラッパー、トラックメイカーPUNPEE待望の1stフルアルバムにしてとんでもない傑作。特に後半に素晴らしいトラックが詰まっています。
ヒップホップ初心者が入門として聴き始められるキャッチーさもあり、コアな日本語ラップのファンが唸る作りでもあると思います。
ジャケットからも分かるように随所に映画やアメコミの引用がちりばめられています。 詳しい人は思わずにんやりしてしまいますね。
歳をとった2057年のPUNPEEが昔(現在、2017年)を思い出すという内容のいわゆるコンセプトアルバム。
おすすめの曲
「Renaissance」オートチューンを使ったメロウなサビとクラシックギターの情熱的なフレーズが気持ちいい曲。
「P.U.N.P (Communication)」「これなきゃ何やってたんだろうな」とラップと自分との関わりを問い直す、ある意味自己紹介的なトラック。PUNPEE は「一般ピープル」からつけたつけたアーティスト名が体現する様に、セルフボースティング(自分自慢)をメインとしたライミングではなく、ちょっと自虐的だったり、控えめだったりするところが面白いし、ラップのそういう所が苦手な人でも入りやすいかと。
「Stray Bullets」PUNPEEは実弟の5lackとGAPPERでPSGというユニットを組んでいて、『David』という素晴らしいアルバムを一枚残しているのですが、再びそのメンツが集合した一曲。不穏なトラックがPSGらしく、本作でも1番Coolで聴き応えのある一曲。
「Oldies」タイトル通りオールディーズっぽいトラックに乗せたラップ。コンセプトアルバムとしての終わりはなんとなくここまでっぽい感じがする。
「Hero」アルバムのラスト曲で最後にふさわしいナンバー。最もシリアスなトーンの曲で、アメコミ愛が溢れた歌詞から意外なところに広がりを見せる感動的なトラック。
37位 Flippers Guitar 『three cheers for our side 〜海へ行くつもりじゃなかった〜』1989年
全編小沢健二による英語詩で彩られたネオアコの理想郷が展開される正に規格外のデビュー作。完璧なクラスメイトみたいで実に腹の立つアルバム(笑)。そのクラスメイトが芸能界に入ってパリに住み始めたのが2ndで、宇宙飛行士になっちゃったのが3rdという感じ。
この頃はオザケンと小山田圭吾二人だけのユニットではなく、5人編成のバンドでした。このままバンドとして存続してたらおもしろかっただろうなとは思います。
小沢さんってボーカリストのイメージがありますが、元々ギターメインで、このアルバムでもコーラスとギターがメインです。
最初フリッパーズでもずっと歌は小沢さんだと思ってました。リアルタイムじゃなくて、コーネリアスとオザケンのソロ活動からフリッパーズを聴き始めた人って、そう勘違いしていた人は結構多いんじゃないでしょうか。
おすすめの曲
「Hello/ハロー/いとこの来る日曜日」海外の児童文学みたいな世界観。ちょっとイジワルないとこの女の子が遊びにきて、その子とのことが語られます。そのサウンドのようなどこか懐かしくてくすぐったい世界。前述したように全編英語詩なんですけど、歌詞カードにはきちんと小沢さん自らの対訳がついています。
「Coffee-milk Crazy/コーヒーミルク・クレイジー」アコースティック・ギターのソロも気持ちいい、ボサノバ調の爽快なナンバー。コーヒーミルクに夢中なんだ、といういってしまえば、それだけの歌詞なんですけど、CMとかにそのまま使えそうなぐらいキャッチーな名曲です。
「The Chime will Ring/やがて鐘が鳴る」イントロはヘアカット100の「Lemon Firebrigade」でしょうか。このアルバムで一曲選べといわれたら迷わずこの曲を選びますね。本作の集大成というべき圧巻のギターポップナンバーです。
「Red Flag on the Gondola/レッド・フラッグ」元々は民謡でいつのまにかクリスマスソングの定番となった「もみの木」。その「もみの木」のメロディーに新たな歌詞をついて労働歌・革命歌となったのが「赤旗の歌」なんですけど、この曲はメロディーは「もみの木」そのもので、「赤旗の歌」をタイトルを含めてもじったような歌詞になっています。「グリーンスリーヴス」とかもそうですが、民謡ってメロディーの力、美しさがやはり際立ってますよね。長い間歌われ、伝承されていく過程でだんだんと最適化されて真に美しい部分、心地よい部分だけが残ったという感じがします。
36位 荒井由実『ひこうき雲』1973年
ユーミンはよくも悪くもストーリーテリングが巧みですが、今作は最もパーソナルな歌が詰まってると思わせる様な全てが瑞々しいデビュー盤。名曲に適切なアレンジが、施された丁寧なアルバムでもあります。
初期のユーミンが綴る物語ってなんとなく日本っぽくないんですね。どこかのヨーロッパとかの童話の世界の様な。それこそこの次のアルバムに入っている「やさしさに包まれたなら」は『魔女の宅急便』のエンディングテーマに採用されましたが、世界観としてはそんな感じです。
また、これほど自然が歌い込まれたアルバムも珍しいと思いますね。雨や青空、海などがあちらこちらに出てきて、それが舞台装置のみならず、主人公の心待ちを代弁していたりします。
本作にある種の普遍性があるのはこういった古びることの無い自然をメインの舞台としているから、というのもありそうです。これが八十年代のユーミンだと都市の風景、リゾートの風景になっていく。
それが悲しくも寂しくもあります。
ベース:細野晴臣、キーボード:松任谷正隆、ギター:鈴木茂、ドラム:林立夫
と、レコーディングメンバーもめちゃくちゃ豪華ですね。年にジブリ映画『風立ちぬ』の主題歌に「ひこうき雲」が採用され、近年また注目が集まったアルバムでもあります。
おすすめの曲
「紙ヒコーキ」のんびりとしたスライドギターが最高。
「雨の街を」雨の日のなんとなく憂鬱な気持ちをもてあそんでまどろんでいる様な曲。
「返事はいらない」Aメロのリズムに工夫があって癖になる曲。 どの曲にもフックになる部分があって気持ちよくさせてくれるのと同時に叙情性もあるのが流石。コレがデビュー曲なのが凄い。
35位 TRICERATOPS 『The Great Skeleton’s Music Guide Book』1998年
ポップでキャッチー、甘い歌詞にシンプルだけど旨みがギュッと詰まったギターバンドサウンドに男女問わず心を鷲掴みされる2nd。ほぼ恋愛の事しか歌ってないのも潔くて逆に格好よい。
基本バンドだけのシンプルな構成でギターリフドリブンな曲ばかり。それで一枚丸々聴かせて捨て曲なしって結構凄い。
ほんと「俺の彼女かわいいでしょ、ラブラブなんすよ」とか「ちょっと倦怠期なんすよ」とかカッコいい服や靴の話とか、基本的にそんなんばっかり。それが歌詞が軽いとか重みがないという批判につながっているんですけど、けどそれはとってもリアルだし、親しみやすさや、バンドへの親近感に繋がっていると思います。
弱さとか悩みとかもストレートに織り込んでくる。悩みといっても肩肘張った深刻なもんじゃなくて「ちょっと凹むよな」的な。
近所のちょっとカッコいいお兄ちゃんがすげーイカした音楽やってるようなそんなバンド。という事でトライセラはいつもファンと共にあって共に成長していこうという、実は稀有なバンドだと思います。
このセカンドアルバムはそれのまさに最良のサンプルの一枚。
おすすめの曲
「FEVER」ドラムの四つ打ちでハットが裏伯に入るこのダンスビートパターン、邦楽バンドから一時期腐るほど聴かされてた気がしますがそのハシリって誰なんでしょうか。とはいえこれは名曲です。
「MASCARA&MASCARAS」この曲とかギター弾きたくなりますね。ギター弾きたくなる率が一番高いバンドはトライセラなんじゃないかって思います。ギタリストは丸々一枚弾きながら聴くと楽しいと思います。
34位 Galileo Galilei 『ALARMS』2013年
メンバーの脱退を受け、3人体制になってから初のフルアルバム3rd。前作よりもシンセポップ的な要素は後退してバンドサウンドにより重点をおいています。
人数が減ったことで厚みがなくなるかと思ったんですけどサウンドは逆に厚みをましましたね。またエコーのかかり具合、メロディーの美しさはさらに深まって、更にドリームポップ的、音の桃源郷の世界へいざなわれる一枚…。
この頃から本格的に「ハマナスの花」のころのイメージと成功が重荷になり始めた感じがします。
テーマもよりダークに、性的なイメージも盛り込んでくるようになりました。恋愛をテーマにした曲が多くなったのも特徴です。
前作では歌メロ以外でもギターの岩井郁人の印象的なフレージングなどのメロディが楽曲を引っ張って行ったりしてたのですが、今回はそれよりも音の響き、サウンドプロダクションを重視した作りになっています。
おすすめの曲
「パイロット・ガール」「いつでも数キロ先を行って」いるような女の子、とその子に恋する男の子の歌。同い年でも女性の方が大人びていることが特に十代ではありがちですが、この歌をそういう関係性を連想させます。このアルバム全体に言えることですが女性に翻弄される主人公を描いた曲が多い。
「処女と黄金の旅」本編で一番美しい曲。 夜の遊園地、メリーゴーランド、魅力的な女の子。エコーが効いて輪郭がぼやけた、夜の遊園地の幻想的な雰囲気がよくでている音像ですね。あえてサビの部分でドラムをバスドラムだけにしてみたり、音数を少なくしてるんですが、これがポイントだと思ってます。まるで周りの音がフェイドアウトしていって主人公と相手の女の子だけの世界になってしまったような、そんな映画的な演出のような効果が出ていないでしょうか?
「サークルゲーム」ガリレオのアルバムには必ず1曲は超名曲が入っていて、今作はこの曲があたま一つ抜けているかと。この曲も「青い栞」同様、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』関連の楽曲で、今度は映画の主題歌。
33位 高田渡『石』1973年
自作詩と現代詩にフォークスタンダードや自作のメロディをのせるというスタイルでやってきたが、それを突き詰めつつ、アレンジのバリエーションも加わった初期の隠れた名盤。
前の二枚より、フォークに限らないアメリカ音楽の影響が強く、リズムが全体的にスウィングしててのれるのと、従来の良さが合わさって、なんとも言えない贅沢な味わいになってます。
おすすめの曲
「私は私よ」映画『天井桟敷の人々』の脚本や「枯葉」の作詞で知られるジャック・プレヴェールの歌詞に曲をつけたもの。ニューオリンズジャズ風のアレンジが歌詞の内容にとてもマッチしている。
「火吹竹」トム・ウェイツに歌ってもらいたい。 一人で夜に何にもせずじっくりと耳を傾けたい曲。
「当世平和節」フィドル(バイオリン)が入ったカントリー調の曲。 「東京の名物、満員電車、いつまで待っても乗れやしねぇ」 「いくら稼いでも足りないのに 物価はいよいよ高くなる」 もう50年近く前の曲なのに何にも変わってないですね。基本文句というかプロテスタントソングというか社会抗議的、もしくは都会のブルースとでも言うべき歌なんですが、カントリーのユーモラスで楽しいノリと、本人の歌い方で、楽しく聴けてしまいます。
32位 友部正人『にんじん』1973年
優れた詩人がもしギターを弾けて歌えたら無敵だという事がよくわかる日本のフォークの至宝。ギター一本と歌で何が出来るか、その答えがここにあります。
ギターと歌、たまにハーモニカ。それだけのアレンジだから素朴な味わいなのかと思いきや、凄い密度、気迫に気圧される1枚です。
メンバーがいないから音楽活動出来ないとか言い訳はこれ聴いちゃったらいえないですよ。一人でこれだけのことができるんですから。
ギターと歌とハーモニカだけでここまでの世界を見せれるという最高峰の一つですね。
あとはこのアルバム、ジャケットも凄いですよね。おじいさんのアップで「おでん」という文字がでかでかとあって後はお品書きっぽいのがちらほら。それだけ。
アーティスト名もアルバムタイトルも入ってない強烈なインパクトのあるジャケットです。
おすすめの曲
「乾杯」あさま山荘事件が収束した日の報道や人々の反応について描写したトーキングブルース。爽やかで美しいギターのフレーズとは裏腹に、なかなか辛らつな内容です。普通はこういう時事問題を取り扱った曲の賞味期限って短いものなのですがこの曲は違いますね。「あさま山荘事件」を通して現代でも通用するテーマを扱った曲だからです。ここで描写されている人々やメディアの「あさま山荘事件」の取り上げ方、反応の仕方は現代とまったくかわってないですね。この曲ではそんなメディアや人々の反応を描写しつつもの友部さんの(または語り部の)複雑な心情がつづられています。是非じっくりと歌詞に向きあって解釈し、味わって、いろいろ考えて欲しい曲です。
「にんじん」いきなり最初の方で笑ってしまったり、間違えてたりするんですけど、録り直ししないんですね。他の曲でもそう。真面目な人は怒っちゃうかもしれないですけど。予算の関係なのか、これでよしとしたのか。後者でしょうね。けど聴いてるうちにそんな些細なことはどうでもよくなってくるんです。ところでこの曲に出てくるオヤジさんがジャケットのおじいちゃんなんでしょうかね。
「トーキング自動車レースブルース」所々に入る笑い声や歌い方、ハーモニカの入れ方など、ボブ・ディランの影響を強くかんじる曲。
31位 喜納昌吉&チャンプルーズ 『Blood Line』1980年
久保田真琴、細野晴臣、ライ・クーダーなどをゲストに迎え琉球音楽にディスコやスカなどのテイストも加え音楽性を広げた2nd。
民族音楽って聞くとハードル高そうですが、ポップとしてシームレスに普通に聴けちゃうのは何気に凄いと思います。
全体的に明るくて陽気なサウンドが多いですが、それとは裏腹に当時の沖縄がかかえていた苦悩、問題などがちりばめられた時代のドキュメントでもあります。
おすすめの曲
「じんじん」アメリカのディスコチャートでヒットしたとか。 なんかベンチャーズっぽい雰囲気もある。もともとは沖縄本土で語り継がれている民謡でじんじんとは蛍のこと。
「アキサミヨー」タイトルは驚き、悲しみを表すうちなーぐち(沖縄方言)の感嘆詞。 「日本、中国、アメリカ入り組んでようわからん」という歌詞には考えさせられますね。 沖縄「返還」が1972年。 本作が80年。 実に生々しい隔たりです。
「すべての人のこころに花を」名前は知らなかったけど聴いたことあった!という方も多いのでは。スタンダードソングとして定着した感がありますし、これからもずっと聴き継がれ、歌い継がれていくだろう名曲。通称「花」としても知られています。この曲はいろいろバージョンもありますが、本作収録のバージョンが1番ぐっときますね。間奏のスライドギターはライ・クーダー。
「やんばる」あかるく、ユーモラスなアップテンポのナンバーですが、実は当時の沖縄(そして残念ながら今もなのでしょうか…)が抱えていた問題を提示する内容になっています。本作、うちなーぐちの対訳もついていますので、是非歌詞カードをみながらじっくり聴いていただきたい作品です。
40位から31位まとめ
Galileo Galileiが39位、34位と2枚も入りました。この2枚は本当にぎりぎりまでどちらを上位にするか迷いましたが、楽曲の粒がそろっている『ALARMS』を上位としました。
ガリレオは筆者が一時期相当はまっていたバンドでして、その趣味がストレートに反映された結果に…。
こういうランキングにはなぜかあんまり入ってこないですが、もっと評価されてもいいと思うバンドなので上位に入れられて満足です。
36位 荒井由実『ひこうき雲』は邦楽アルバムランキング常連の一枚。それだけあって確かな説得力を持つ作品です。
今回はあえて代表曲以外の曲を紹介してみました。どこを切り取ってもおいしい驚異のデビュー作なのでこのようなちょっとはずしたアプローチでも十分語れてしまいますね。
31位 喜納昌吉&チャンプルーズ 『Blood Line』。こういうランキングには1stの『喜納昌吉&チャンプルーズ』が紹介され、『Blood Line』が紹介されることはほとんどないですが、こちらも素晴らしい作品ですので是非。
33位 高田渡『石』32位 友部正人『にんじん』と日本のフォーク界を代表するお二人のアルバムが続けてランクインしています。
今回ベスト100を作ってみて、僕はつくづく日本のフォークミュージックが好きなんだなと実感しました。シンプルゆえに歌と曲の力づよさ、言葉のちからのマジックがダイレクトに響いてくる感覚が好きなんでしょうね。
ある意味ラップにも通じる所です。この後もフォークの名盤が登場します。
次はいよいよベスト30に突入です。
30位から21位は意外と定番の名盤があんまり出てこないリストになりました。また90年代のアルバムが5枚もでてきて、60年代、80年代がゼロでした。
30位 はっぴいえんど『風街ろまん』 1971年
このアルバムがランクインしていない「日本のロックアルバムベスト100」が想像できないほど、日本のロック史に燦然と輝きつづける大名盤。
どっしりと落ち着いた極めて完成度が高い豊饒なアメリカンロックを日本語で展開して見せ、これ以降のミュージシャンに多大なる影響を及ぼしました。
参加メンバーが全員これ以降の日本のロック史、ポピュラーミュージックシーンを支えてきたという意味での伝説的なバンドの伝説的一枚でもあります。
そしてほぼ全曲の作詞を担当した、松本隆氏が、失われた東京を描いたソロアルバム的な見方もできるな、と今にしておもいます。
おすすめの曲
「抱きしめたい」濃厚なベースラインが最高な一曲目。はっぴいえんどフォロワーにこういう泥臭いサウンドはあんまり真似されてない気がするけど、このグルーヴをやってみせたことこそが大きな功績の一つかと。
「風をあつめて」はっぴいえんどで一番有名な曲であり、細野さんの全キャリアの中でも一番の名曲として扱われるような重要作。しかし、結構風変わりな曲だと思います。いい感じに響かせるのが難しいといういみで歌いにくい曲だし。ボーカルが二重録音なのもポイントで、メロディーラインの変さ、扱いにくさを軽減していると思います。このアコースティックギターのイントロはほんとマジカルな響きをもってますよね。ドラムのフレージングもとても豊かでリリカル。ドラマーは勉強になると思います。もっとセンチメンタルに歌える曲だと思うんですけどとても軽やかに歌ってて、そこがいいんでしょうね。
「はいからはくち」全パートめちゃくちゃ格好いい。特にイントロのギターと間奏のドラム。 大滝詠一のこういうメロディよりリズム重視のボーカルがロンバケ以降封印されたのは実に残念。
29位 友川カズキ『犬〜秋田コンサートライブ』1979年
パンクよりパンクで、メタルより激しく、ラップより過激な言葉が舞うフォークロックの合間に、声を出して笑えるレベルのめちゃめちゃ面白いMCが挿入されてるどうかしてるライブ盤。頭脳警察のパーカッションのトシ参加。
おすすめの曲
「サーカス」中原中也の詩に曲をつけた一品。同じ現代詩に曲をつけるでも、高田渡の様な凝った編集はないんですが、秋田弁のテイストが混じっており、それが独特。
「寂滅」ゆったりとしたテンポに割と言葉数多く詰めて切迫感を出していますね。万力で頭を締め付けられながら歌唱してる様な凄みがあって、秋田弁とこの種の凄みとの相性はとてもよいとおもいます。
「死にぞこないの歌」色んな死に様を羅列した怖い歌で、どれも痛そうなんだけど変なユーモアを感じる。
「あいうえお狂歌」とにかくこの一曲だけでも聴いてもらいたい、トンでもないテンションの曲。 僕はこの曲がラジオで流れてきて友川さんをしったのですが、その言葉やサウンドの激しさ、緊張感の高さに衝撃をうけました。
28位 きのこ帝国『Long Goodbye』2013年
1stと2ndの合間に発表されたEPで、きのこ帝国が最もシューゲイザーに接近していた一瞬の輝きをとらえた貴重なドキュメントにして日本のシューゲイザーの大名盤。
きのこがシューゲどんズバのこの音楽性なのってこのEPだけなんですよね。勿論それに近い曲は前後のアルバムに入ってたりはするんですけど、基本的にはこれだけ。一瞬の輝きみたいなEPだとおもいます。 勿論前後のきのこがダメというわけではなくて、この方向性での話です。
そして本作、ボーカルの佐藤さんの声の美しさ、透明性を最も前面に打ち出したアルバムではないかと。詩もサウンドに合わせて方向性を絞ってる感じで良いですね。
前作にあたるフルアルバム『eureka』では、割と日本のフォークに通づるような強い言葉や詩の朗読もあり、よくも悪くも多彩さがありましたが、今作はタイトルのような別離、もう届かないものへの憧れと諦念がテーマで統一感があります。
おすすめの曲
「MAKE L」アルバム最終曲で一分強の小品。ですが、アルバム中最も美しい曲かもしれません。夢の様な曲。で夢の様にばっさり終わります。歌のないコーラスのみの曲。
「海と花束」この曲できのこの虜に。意外な展開を見せるPV含め最高にエモい演奏。しかし歌はどこまでも押さえたトーンで、その対比が冴えてます。深い諦念と悲しみを感じさせる曲。
「ロンググッドバイ」表題曲。「心のどこかで まだ少し信じてた愛おしい幻 このままどこまで行こう」 「噂で聞いたよ 意外と平気さ」 破れた恋はUSインディーの爆音でかき消すしかない…
「パラノイドパレード」付き合うのは大変だが抗えない魅力を備えた人物についての歌。
27位 Rhymester 『EGOTOPIA』1995年
日本語ラップ黎明期の生々しい雰囲気、気迫や気負いが十二分に伝わってくる名盤2nd。
古いソウルやファンク、ジャズ、R&Bを中心としたトラックも秀逸で個人的にはライムスター最高傑作。
おすすめの曲
「口から出まかせ feat. KING GIDDRA, SOUL SCREAM」ソウル・スクリーム、キングギドラをゲストに迎え、ユニット又はMCごとにジャジーなトラックがコロコロ入れ替わる日本語ラップ界のパラノイド・アンドロイド。冗談はさておきイントロから飛ばしまくるギドラの2人が全部持っていってます。ここだけ何度繰り返し聴いたことか。
「悪趣味節」ベースのサンプリングがめちゃくちゃカッコいい一曲。Mummy-Dのこの頃のトラックは神がかってるとおもいますね。てか、単に僕の好みなんですけど。
「あしたのショー」ブレイク前夜のどさ回りの様子をライミングした曲。当然『あしたのジョー』のパロディタイトル。顎足枕という表現はこれで覚えました。
「君の瞳に映るオレに乾杯」De La SoulのMe, Myself &Iが恐らく下敷きになって作られた曲。 結構真理をついた歌詞だと思います。
26位 サニーデイ・サービス 『愛と笑いの夜』1997年
他のサニーディのアルバムに比べて、本作がどういうアルバムか結構説明しづらいですが、強力にうったえてくる楽曲が複数入っている名盤。
本作の影の主役がSEで、曲間や曲中に結構入っているんですが、曲との親和性が高く、意識してないと入ってるって気づかないぐらい。全然わざとらしくなくてめちゃくちゃ有能なつなぎ、またはアレンジの一部として機能しています。
サニーディの凄さって、日常の間にふと訪れる特別な瞬間を切り取って、それをポップソングとしてパッケージングする力だとおもうんですけどそれが結構濃厚に感じられる一枚だと思うんですよね。
おすすめの曲
「雨の土曜日」艶っぽいイントロのギターフレーズが印象的。サニーデイは曲がいいのは勿論ですがアレンジが行き届いていて退屈さを感じさせないのが凄い。歌に限らず、メロディーをとても大切にしているバンド。
「愛と笑いの夜」SEが影の主役といいましたが、それが端的にわかるのがこの表題曲。曲調もあいまって間奏の汽車の音や人々の話し声にうっとりとしてしまう。
「サマー・ソルジャー」大名曲。6分もあるんだけど3分ぐらいに感じる。曲そのものの良さもあるんですが飽きさせないアレンジがポイントで、ストリングスとバンドの配分とか絶妙だと思います。こういうゆったりした曲は編曲センスめちゃ問われるのにそのハードルをクリアして尚6分。凄い。
25位 Grapevine 『退屈の花』1998年
メンバー4人がそれぞれ作曲した曲が並ぶ1から4曲目までの流れが特に素晴らしい一枚。いきなり完成度の高さを見せつけこれから先どうするんだと心配になるデビュー作でしたが、このクオリティを維持し続けているのが彼らの恐ろしいところ。
本作についての詳しい解説はこちらから↓
24位 KICK THE CAN CREW 『Greatest Hits』2001年
大ブレイク前のインディ音源のコンピ盤。平気で7文字5文字で堅く韻踏むスキルフルなラップは当時から健在で、それに「若さ」と、この先どうなるんだろう的な「焦燥感や切なさ」が加り、今の3人では絶対再現出来ない輝きがある名盤。
おすすめの曲
「one for the what, two for the who」Kickで1番好きな曲。夕暮れの黄昏の中でずっと聴いていたい曲。メロウなトラックにのせて気持ちよく長いワードで、故郷の待ちについての郷愁ただようリリックが刻まれていく名曲。
「ユートピア」理想に向かって突き進む思い、ハングリー精神が歌い込まれた感動的なナンバー。既に成功を手に入れた今の彼等にはもう作れない熱気をたたえた曲。再現不可能な何かがあるアルバムってやっぱり惹かれてしまいますね。
「Good time!」本作で1番勢いがあるナンバーで後の「マルシェ」の青写真になった曲だと思います。短い間隔で次々にリレーしていく様は実にスリリング。しかも交代の時にいちいち長いパッセージで硬く韻踏んでいくところが憎い。
23位 BLANKEY JET CITY 『C.B.Jim』1993年
音楽的にも詩的にも、独自の世界観にさらに磨きをかけた3枚目。「PUNKY BAD HIP」、「D.I.Jのピストル」、「3104丁目のDANCE HALLに足を向けろ」と、彼等のディスコグラフィー中、最も沢山強力な楽曲が入っているアルバム。特に最後の9分近い「悪い人たち」は圧巻。
おすすめの曲
「PUNKY BAD HIP」「新しい国ができた人口わずか15人。 それも全員センスの無い単車乗りばかりが揃ってる」バイク乗りの集団についてのロックンロールアンセム。カッコ良すぎ。
「D.I.Jのピストル」ドラムはレッド・ツェッペリンの「ロックンロール」、ギターリフはDEVOの「Uncontrollable Urge」を拝借したサイコビリー。メロンソーダとチリドッグの売り上げに、絶対貢献してる曲。
「悪い人たち」言うまでもなく白人によるアメリカ入植に伴うネイティブアメリカンの虐殺とそれに続く文明の虚栄を表した曲。ブランキーの楽曲はブランキー市長のジェット・シティという架空の街の物語という設定なのですが、だいたいアメリカの地方都市のような雰囲気をもっていて、アメリカの歴史をなぞったこの曲もそんなテイストが伺えます。ボーカルの浅井さんが参考にしたかどうかは謎ですが、実は似たような壮大なテーマを持つ曲は他にもあって、イーグルスの「ラスト・リゾート」、ニールヤングの「ポカホンタス」などもそうですね。三曲比べて聴いてみてほしいです。全部名曲。
22位 KID FRESINO『ai qing』2018年
多彩なゲストを迎えつつもそのアルバムパッケージが体現している様な透明感と情熱を感じさせる、統一感のある一枚。
心地よくて格好良い音が沢山詰まったヒップホップアルバム。リリースから年月は浅いが既に名盤の風格アリ。
フレシノさんは最初はトラックメーカーで、後にラップと始めた人なんですけど、そういうトラックも作るし、ラップもやる人が自分は結構好みですね。自分のリリックの世界観をトラックで自由に表現できるのは強みだと思います。
このアルバムはトラックを結構他の人に任せてたり、バンドと共演してたりするんですけど、ゲストは多彩なんですが、不思議とゲストの力頼りのアルバムには全然聴こえないです。それは良いヒップホップのアルバムの必要最低条件かなとおもいます。全体のカラーやベクトルをちゃんとコントロールできてるっていう。
おすすめの曲
「Coincidence」アルバム一曲目。ヒップホップアクトでは珍しくこのアルバムでは三浦淳悟(bass / ペトロールズ)、 佐藤優介 (keyboard)、 斎藤拓郎(guitar / Yasei Collective)、 石若駿(drum)、 小林うてな(steelpan, Chorus) のバンド編成をバックとしてしたがえています。この曲もその編成で、クリーントーンの透明感のあるギターに、マスロック、ポストロックっぽいリズム隊、スティールパンの熱くてクールなトーンの演奏が聴きどころ。PVもめちゃくちゃ格好よい。
「Cherry pie for ai qing 」打って変わって打ち込みのリズムにシンセサウンドの二曲目。核にフレシノさんのラップがあるからかもしれないが、一曲目とまるで違和感なくシームレスに聴ける。
「Arcades (feat. NENE) 」ゆるふわギャングNENEとの共演。 子供のコーラスが気持ちいい。 携帯のコール音が、効果的に響く。
「Winston (feat. 鎮座DOPENESS) 」再びバンドとの共演。鎮座DOPENESSが客演でサザンを引用してますね。 セクシャルな話題ですが英語と日本語ちゃんぽんなスタイルでちゃんと聴かないとそうと分からない笑。 ライムと声のトーンの気持ち良さの追求という意味で結構この二人はスタイルが似ていてコンビとしてマッチしていると思いました。
「Nothing is still (feat. C.O.S.A.) 」盟友C.O.S.A.との共演。二人の友情が感じられる熱いトラック。石若さんのドラムがキモ。
「Way too nice (feat. JJJ) 」水曜日のカンパネラのブレインであるケンモチヒデフミ氏のトラック曲。水曜日が割とユーモラスなイメージだったのでこういうシリアスなトラックは意外でした。本作で一曲選ぶとしたらコレ。大陸的な雄大さを連想させるトラック。中国の仙人とかが住んでそうな奥地を想像しちゃいますね。
21位 くるり 『さよならストレンジャー』1999年
基本的に歌に軸を置いたフォークロックだが、90年代を総括する様な新しさもあるデビュー作。
表現している内容は青春や若さ故の焦燥感や感傷だったりするんですが、バンドとしては最初からしっかりとしていた強固さを感じます。
また三拍子が多いアルバムですね。エイトビートばかりでバウンスもなく、適切な攻撃性すらないアルバムは最後まで聴いてられないですが、このアルバムは全然違います。
実はインストも12曲中3曲で結構多い。全然そんな印象無いんですけどね。歌入り曲の一曲一曲の濃度が高くて満足度が高いからそう感じないのかもしれません。
プロデューサーはザ・ブルーハーツやJUDY AND MARYのプロデュースで知られる佐久間正英。
アルバムの詳細については下記の記事で書いてます。
30位から21位まとめ
はっぴいえんど『風街ろまん』。このアルバムが30位なのが納得できない読者のかたもいるのではないでしょうか。この手のランキングではかなりの上位に位置してもおかしくないアルバムですね。
僕も最初仮で順位付けする段階では一位にしてました。でも結果的にこの順位になってしまったのは、メンバーがそれぞれこの後に発表したアルバムのほうが、より強い情熱を感じるという理由ですね。
結構これはクールに作られたアルバムなんじゃないかなと、思ってます。ドキュメンタリーとかでも皆さん結構淡々と語られてますし。
29位友川カズキ『犬〜秋田コンサートライブ』は超名盤だとおもうんですが、現在入手困難。再発かサブスク解禁モトム。
サニーデイ・サービス 『愛と笑いの夜』。今回のランキングで非常に悩んだのがサニーデイのアルバムでどれを選ぶか何位にするか… 。
サニーデイのアルバムはどれも高水準で、本当にその時の気分気分で「このアルバムが一番だ!」ってなってしまうんですよね…。
Grapevine 『退屈の花』。Grapevineも常に高水準のアルバムを発表し続けるアーティストで、これも選出に苦労しましたね。
こういうランキングに意外とノミネートされないのが不思議でして、ガリレオガリレイやトライセラトップスと同じく、今回高順位で紹介できてよかったです。
KICK THE CAN CREW 『Greatest Hits』はベストと名をうっていまして、一応このランキングではベスト盤は除外というルールでやっていますが、これ以前のアルバム一枚に数曲を足したコンピ盤的な一枚ですので、例外としてランクにいれました。
次回は20位から11位です。アルバムランキング常連の70年代の名盤が多数出てくるセレクトになっています。