邦楽アルバムオールタイムベスト100総評

 邦楽アルバムオールタイムベスト100(2024開催)の個人的な分析を書いてみる。前回ブログでは本編と一緒に総評も書いたが、読みたくない人もいるだろうし、ノイズになるから今回はこのように分離させた。それでは早速100位から見ていきたい。ガンガンネタバレしていくので順番にランキングを楽しみたい方はこちらでランキング結果を見てからがおすすめ。

100位から91位

100位『Q』Mr.Children(2000年)342点(前回290位)
99位『ひこうき雲』荒井由実(1973年)345点(前回29位)
98位『POP VIRUS』星野源(2018年)349点(前回94位)
97位『diorama』米津玄師(2012年)353点(前回332位)
96位『C.B.Jim』 BLANKEY JET CITY(1993年)354点(前回44位)
95位『DANCE TO YOU』サニーデイ・サービス(2016年)362点(前回98位)
94位『THE BAY』Suchmos(2015年)363点(前回196位)
93位『Please Mr. Lostman』the pillows(1997年)366点(前回259位)
92位『ファンクラブ』ASIAN KUNG-FU GENERATION(2006年)369点(前回135位)
91位『Lifetime』GRAPEVINE(1999年)369点(前回57位)

 97位 『diorama』米津玄師。残念ながら米津玄師のランクインはこれ一枚。セールスは勿論のこと批評的にも評判の高かった『STRAY SHEEP』などの近作ではなくて米津玄師名義でのデビュー作である本作なのは意外だったが、今聴いてみると本ランキングのメインの投票者層と思われるロック系リスナーとの親和性は高い内容なので納得。現役世代が後追いで聴いた票も集まっての結果だと思う。

『THE BAY』Suchmos

 94位 『THE BAY』Suchmos。その人気とTwitterで今の20代が熱く語っている影響のデカさを考慮すると196位と前回が低すぎた気がするが、今回も90位代にこれ一枚のみだった。再始動もしたこともあり、次回5年後にもしまたやるとしたらもっと上位にくると考えられる。
 93位 『Please Mr. Lostman』the pillows。彼らの代表作といえば本作だと思っていたが前回はランクインせず (259位)、代わりに『HAPPY BIVOUAC』が同じく93位に入っていた。今回『HAPPY BIVOUAC』が順位を落として(240位)本作が浮上した原因がよくわからないが、「ストレンジ・カメレオン」など分かりやすい代表作が入っている本作の方がこのようなランキングには収まりがいいかもしれない。

90位から81位

90位『three cheers for our side 〜海へ行くつもりじゃなかった〜』フリッパーズ・ギター(1989年)370点(前回133位)
89位『アダンの風』青葉市子(2020年)371点(前回-位)
88位『狂 (KLUE)』GEZAN(2020年)375点(前回-位)
87位『卵』betcover!!(2022年)375点(前回-位)
86位『タオルケットは穏やかな』カネコアヤノ(2023年)376点(前回-位)
85位『泰安洋行』細野晴臣(1976年)383点(前回22位)
84位『POLY LIFE MULTI SOUL』cero(2018年)390点(前回68位)
83位『MODERN TIMES』PUNPEE(2017年)390点(前回116位)
82位『YELLOW DANCER』星野源(2015年)391点(前回157位)
81位『サニーデイ・サービス』サニーデイ・サービス(1997年)393点(前回61位)

 89位 『アダンの風』青葉市子。架空のサウンドトラックをコンセプトに作成され、海外からも高い評価を受けている本作。今回のランキングの中で、もっともアンビエント、ニューエイジ色が強い作風。もっとこのような作品がランクインしてくると思ったが意外とそうでもなかったのが残念ではあった。

『狂 (KLUE)』GEZAN

 前回も票は入っていたが、ルールでは2019年までだったのでなくなく落としてもらった 『狂 (KLUE)』GEZAN(2020年)が今回無事88位にランクイン。当時の時代のムードを映し出したような優れたドキュメントのような一作でもあるので今後の評価がどうなっていくのかも気になる一枚。
 82位 『YELLOW DANCER』星野源。星野源はこれが最高位。98位にも『POP VIRUS』がランクインしている。米津玄師と共に先鋭的な音楽表現を取り入れながらヒットも飛ばしていく頼もしい存在だが、この後発表を控えている最新作も併せて、今後もっと評価を高めていくアーティストだと思う。

80位から71位

80位『MISSLIM』荒井由実(1974年)394点(前回34位)
79位『ERA』中村一義(2000年)398点(前回40位)
78位『な・ま・し・び・れ・な・ま・め・ま・い』ゆらゆら帝国(2003年)399点(前回-位)
77位『南蛮渡来』暗黒大陸じゃがたら(1982年)402点(前回41位)
76位『GAME』Perfume(2008年)407点(前回42位)
75位『一触即発』四人囃子(1974年)409点(前回50位)
74位『メシ喰うな!』INU(1981年)411点(前回92位)
73位『HELP EVER HURT NEVER』藤井風(2020年)415点(前回-位)
72位『フジファブリック』フジファブリック(2004年)415点(前回84位)
71位『SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT』NUMBER GIRL(1999年)415点(前回28位)

 80位 『MISSLIM』荒井由実。もちろんファーストと比べてもそん色ない内容だが知名度、評価の高いファーストよりも上をいったのが興味深い。そのファースト『ひこうき雲』99位 で前回29位だったのが一気にランクダウン。エヴァーグリーンとはまさにこのアルバムのことで曲の良さとバックの演奏陣の確かさに初期のユーミンしか持ちえない瑞々しい歌声が素晴らしいアルバムなので、前回の順位は半世紀前のアルバムとしては高すぎるかもしれないが、せめて50位ぐらいにはいて欲しかった気もする。
 77位 『南蛮渡来』暗黒大陸じゃがたら(1982年、前回41位)、75位 『一触即発』四人囃子(1974年、前回50位)。前者は日本のパンク/ニューウェーブ、後者はプログレッシブロックを代表する名盤だが順位を落としている。先の荒井由実もそうだが、80年代以前の定番と言われる名盤が一部を除いてかなり苦戦した結果となった。

『メシ喰うな!』INU

 一方で同じく80年代のアルバムでありながら順位を上げているのが74位 INU『メシ喰うな!』(1981年、前回92位)。順位を上げた理由は推測できないが、インパクトのあるジャケット、パンク/ニューウェーブの勢いあるバンドサウンドにトリッキーなギターアレンジが異様な切れ味をみせ、それども意外とポップな楽曲と存在感抜群の歌詞が最高の一枚。
 76位 『GAME』Perfume。アイドル枠としては最高位。彼女たちはもうアイドルの枠組みを軽く超えた人気、評価を得ている存在ではあるが。また別の記事で取り上げるが、ランクインはしなかったものの、多種多様化したアイドルのアルバムの票も多数集まっていた。
 73位 『HELP EVER HURT NEVER』藤井風。最近では「死ぬのがいいわ」の海外でのバイラルヒットでも注目を集める一枚。更にサウンドを洗練させてきたセカンドアルバムともども今後どのように評価されていくのか要注目。

70位から61位

70位『Fantôme』宇多田ヒカル(2016年)418点(前回114位)
69位『ソルファ』ASIAN KUNG-FU GENERATION(2004年)420点(前回101位)
68位『HELL-SEE』Syrup16g(2003年)421点(前回76位)
67位『フェイクファー』スピッツ(1998年)438点(前回37位)
66位『加爾基 精液 栗の花』椎名林檎(2003年)438点(前回113位)
65位『BANG!』BLANKEY JET CITY(1992年)441点(前回150位)
64位『東京』サニーデイ・サービス(1996年)442点(前回17位)
63位『図鑑』くるり(2000年)455点(前回31位)
62位『三日月ロック』スピッツ(2002年)458点(前回108位)
61位『ワルツを踊れ Tanz Walzer』くるり(2007年)459点(前回36位)

 69位 『ソルファ』ASIAN KUNG-FU GENERATION (前回101位)。前回惜しくもぎりぎり圏外だったアジカンの代表作。そして本作の内容をさらに研ぎ澄まし、ギターアンサンブルを完成させた傑作、『ファンクラブ』が92位にランクイン。『ソルファ』はその荒削りな点も味になっているエモーショナルなレコードで人気の高さもうなづけるが、もしかしたら今後は完成度の高い『ファンクラブ』の方が評価を高めていくかもしれない。
 68位 『HELL-SEE』Syrup16g(2003年、前回76位) 。前回同様本作がランクイン。若干順位を上げている。22年にでたアルバムも評判がよかったり『ぼっち・ざ・ろっく!』でパロディにされたり、最近も話題になっていることもあり、ランクアップは納得。
 65位 『BANG!』BLANKEY JET CITY。 前回は圏外(150位)だった名盤がランクイン。逆に前回 44位だった『C.B.Jim』は96位と、順位を落としている。土屋昌巳と初めてタッグを組んで、その真価を発揮した『BANG!』、さらにその世界観を進化させ、楽曲の強度も増した『C.B.Jim』とで、過渡期ならではの勢いがある『BANG!』の方に人気が集まったのは興味深い。最近サブスク解禁されたこともあり、新しいリスナーを獲得して今後どうなるかも注目していきたい。

『東京』サニーデイ・サービス

 前回5枚も100位圏内に送り込み、異様な強さを見せつけていたサニーデイ・サービス。今回の最高位は、64位 『東京』(1996年、前回17位)。その名の通り東京をテーマにしたコンセプトアルバムで、名盤の誉れ高い一枚だが、順位を大きく落とした。サニーデイは他に、95位『DANCE TO YOU』(2016年)、81位『サニーデイ・サービス』(1997年)がランクイン。前回が強すぎたということもあるのでこれぐらいでも妥当かもしれない。初期の7枚はどれも名盤なので、今後多少の入れ替えがおこって欲しいと思っている。また前回もランクインした『DANCE TO YOU』が再結成後の名盤として完全に定着した感がある。これに『いいね!』が続く流れもあるかもしれない。

60位から51位

60位『燦々』カネコアヤノ(2019年)461点(前回262位)
59位『First Love』宇多田ヒカル(1999年)461点(前回62位)
58位『黒船』サディスティック・ミカ・バンド(1974年)467点(前回74位)
57位『FOR YOU』山下達郎(1982年)491点(前回33位)
56位『アンテナ』くるり(2004年)503点(前回86位)
55位『BGM』イエロー・マジック・オーケストラ(1981年)504点(前回24位)
54位『Modal Soul』Nujabes(2005年)512点(前回59位)
53位『Obscure Ride』cero(2015年)533点(前回23位)
52位『SAPPUKEI』NUMBER GIRL(2000年)536点(前回25位)
51位『AINOU』中村佳穂(2018年)549点(前回45位)
『燦々』カネコアヤノ

 60位 『燦々』カネコアヤノ(2019年、前回262位)。86位『タオルケットは穏やかな』カネコアヤノ(2023年) ダイナミックなバンドサウンドと歌唱は、同世代から、古参のロックファンまでも魅了し、幅広い年代から支持を集めている印象だったが、今回はそれが票となって結実した感がある。ただ前回一番順位の高かった『祝祭』が圏外だったのが意外だった。
 57位 『FOR YOU』山下達郎(1982年、前回33位)。ブームがひと段落したこともあってか、シティポップ関連の投票が思ったよりものびず、本作も順位を落とした。もしくは当人のジャニーズ関連の対応も影響しているのかもしれない。サブスクにないこともあって少しアクセスし辛いのかもしれないが、完成度の高さは折り紙つきのポップアルバムなので未聴の方は是非。
 クラシックな名盤が苦戦したと前述したが、その中で『黒船』サディスティック・ミカ・バンド(1974年、前回74位)は例外的に順位を上げ、今回58位。ユーモラスでストーリー性と高い歌詞、確かな演奏技術に支えられたアレンジとそれを引き立てるようなサウンドプロダクションと、現代の邦ロックに通じる部分もあってそれがウケたのかもしれない。実際最近のバンドが学べるところも少なくない一枚。

『AINOU』中村佳穂

 51位 『AINOU』中村佳穂(2018年、前回45位)。前回もリリースからそれほど年月が経っているわけでもないのにランクインしていた中村佳穂のデビューアルバムが今回もランクイン。すっかりこの手のランキングの常連になった感がある。確かなソングライティングとアレンジが光る音楽的強度の高さと現代的なナイーブさと情熱が同居しており、ひょっとしたら今後、新しい世代にとっての『ひこうき雲』のようなポジションになっていく一枚かもしれない。

50位から41位

50位『kocorono』bloodthirsty butchers(1996年)549点(前回18位)
49位『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』銀杏BOYZ(2005年)564点(前回60位)
48位『ペイパードライヴァーズミュージック』キリンジ(1998年)567点(前回73位)
47位『家庭教師』岡村靖幸(1990年)572点(前回14位)
46位『HIGHVISION』SUPERCAR(2002年)581点(前回79位)
45位『POINT』Cornelius(2001年)586点(前回13位)
44位『病める無限のブッダの世界~BEST OF THE BEST(金字塔)』BUDDHA BRAND(2000年)599点(前回-位)
43位『THE BLUE HEARTS』THE BLUE HEARTS(1987年)603点(前回43位)
42位『TEAM ROCK』くるり(2001年)608点(前回39位)
41位『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』イエロー・マジック・オーケストラ(1979年)627点(前回27位)

 50位 『kocorono』bloodthirsty butchers(1996年、前回18位)。日本のハードコア/オルタナティブロックの名盤で、伝説的な一枚ではあるが、すでに解散しているバンドで、本作はサブスク未解禁という不利な条件のなかでまだまだ高順位を保っている。バンドという表現形態が滅びない限り、ある種のピュアさを体現してるこの一枚は支持され続ける気がする。

『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』銀杏BOYZ

 49位 『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』銀杏BOYZ(2005年、前回60位)。元Going Steadyのメンバーが中心になって結成されたバンドのデビューアルバム。 本作と同時発売だった『DOOR』とどうしてこのような差が大きくなってしまったのだろう。勿論内容の違いが大きいとは思うが、大仰なアルバムタイトルや、江口寿史によるポップでアイコニックなジャケットのインパクトも貢献していると思う。スターリン、三上寛、中島みゆきなどの引用、影響も感じられ、良く聴くと意外と邦楽ロック史みたいなものを背負っているアルバムでもある。
 47位 『家庭教師』岡村靖幸(1990年、前回14位)。依然として順位は高いが、前回よりも大きくランクダウン。バブル崩壊前夜の羽振りの良さをうかがえる内容(そんな「豊かさ」の空虚さを描いた一枚でもあるのだが)がいま共感を得にくくなっているのかもしれない。

『病める無限のブッダの世界~BEST OF THE BEST(金字塔)』BUDDHA BRAND

 44位 『病める無限のブッダの世界~BEST OF THE BEST(金字塔)』BUDDHA BRAND(2000年)。 599点 (前回-位)。今回の結果はヒップホップ/日本語ラップでランクインしていたのは他に、前回100位圏外だったのが意外なほど、幅広いリスナー層から支持を得ているPUNPEE『MODERN TIMES』が83位。そして海外からの評価の高い、54位 『Modal Soul』(Nujabes)だけであった。前回ランクインしていたTHA BLUE HERBが100位圏外、日本語ラップメインのリスナー以外にも支持されているという認識だった、KID FRESINO、KOHH、Tohjiもランクインせずと、日本語ラップにはなかなか厳しい内容だった。これでは日本語ラップファンからは偏ったランキングと言われても仕方ない(そういう声自体が少なかったのでそれがむしろ悲しかったが)。Awich、BAD HOP、舐達麻など、現在進行形で人気のあるアーティストが入ってきてもおかしくはないとおもっていたが、思ったよりも得票がなかった。日本語ラップに関してはまた別の記事で取り上げたい。
 43位 『THE BLUE HEARTS』THE BLUE HEARTS(1987年) 。前回43位と偶然にも同順位。言わずと知れた日本のパンク(これが純然たるパンクアルバムかといわれたらそう言い切るのもちょっと抵抗があるのだが)の名盤だが、本作ばかりに人気が集まって、他のアルバムや、中心メンバーの真島昌利、甲本ヒロトが結成した他のバンド、クロマニヨンズ↑THE HIGH-LOWS↓も評価されにくくなっている状況には結構モヤモヤしている。なにせ、すべてのキャリアがサブスク未解禁なので、有名なこのアルバムにアクセスが集中してしまうのもあるだろうが……。
 41位 『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』イエロー・マジック・オーケストラ(1979年、前回27位)。テクノポップブームを巻き起こし、世界的な影響力もある歴史的名盤だが前回からランクダウン。YMOは勿論大好きだし、重要なアルバムだと思うが、ちょっと過大評価気味な気がするので、このくらいの順位が丁度いい。YMOは他に55位により実験的な方向へ舵を切った 『BGM』(1981年、前回24位)がランクイン。

40位から31位

40位『サッポロOMOIDE IN MY HEAD状態』NUMBER GIRL(2003年)639点(前回287位)
39位『時間』betcover!!(2021年)641点(前回-位)
38位『ユグドラシル』BUMP OF CHICKEN(2004年)647点(前回295位)
37位『勝訴ストリップ』椎名林檎(2000年)649点(前回69位)
36位『LONG SEASON』フィッシュマンズ(1996年)652点(前回141位)
35位『our hope』羊文学(2022年)663点(前回-位)
34位『Your Favorite Things』柴田聡子(2024)668点(前回-位)
33位『HOSONO HOUSE』細野晴臣(1973)668点(前回19位)
32位『[lust]』レイ・ハラカミ(2005)672点(前回58位)
31位『TEENAGER』フジファブリック(2008)675点(前回54位)
『サッポロOMOIDE IN MY HEAD状態』NUMBER GIRL

 40位 『サッポロOMOIDE IN MY HEAD状態』NUMBER GIRL(前回287位)。前回は100位圏外の解散ライブの様子を収めたこの一枚が、52位 『SAPPUKEI』71位『SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT』などの定番スタジオアルバムを抑え、NUMBER GIRLで一番の高順位だった。ライブに定評があるバンドであるがゆえに、スタジオ盤ではとらえきれない彼らの魅力をとらえた本作が人気なのは意外だったが納得はできる。ベスト盤的な選曲になっている点もポイントが高い。同じく前回圏外どころか何故か一票も入っていなかった 『な・ま・し・び・れ・な・ま・め・ま・い』(ゆらゆら帝国)78位、海外からの評価で逆輸入的に評価が高まっている『98.12.28 男達の別れ』(フィッシュマンズ) が24位と、ライブに定評にあるバンドのライブ盤が票を伸ばした。

『時間』betcover!!

 今回カネコアヤノと共にランキングでの存在感を新たに見せつけていたのが、betcover!!39位『時間』(2021年)、 87位『卵』(2022年)がラインクインした。2010年代後半から様々なジャンルをよどみなく一つの楽曲、またはアルバムに落とし込んで快楽性の高い作品を作ることが、名盤、名曲の一つの条件すらなってきて、結果質の高い音楽は増えたが、予想を裏切らないものであふれてしまった感はあった。対してbetcover!!は、ジャンルをよどみなく一つの楽曲に落とし込むところまでは一緒だが、それが心地よさではなく、カオティックな空間づくりや不穏さにベクトルが向いており、その点が多くのリスナーにとって新鮮かつ衝撃的だったのではないだろうか。
 betcover!!同様音楽ファンには定評のある羊文学35位にメジャーセカンドとなる 『our hope』(2022年)がランクイン。他にも優れたアルバムがある中、本作に票が集中したのが興味深い。今後羊文学の名盤はとりあえず本作、というようになっていくのだろうか。
 38位 『ユグドラシル』BUMP OF CHICKEN(2004年、前回295位)。その人気、知名度からしていままでランクインしなかったのが、不思議なことだが、今回はヒットシングルを多数収録した本作が上位にランクインした。このアルバムだけ人気が集中したのも興味深い。世代の統計をとっていないので印象にすぎないが、比較的若い世代の投票がメインだった気がするので、今後同様のランキングで定着するか動いてしまうのか気になるところではある。

『Your Favorite Things』柴田聡子

 今年リリースされたアルバムがどのくらい食い込めるかも今回のランキングの楽しみの一つだったわけだが、岡田拓郎をプロデューサーに迎え、歌い方も変え、サウンドプロダクションも楽曲もがっちり一つの方向に絞り込んで完成度の高さを見せつけ、各方面から絶賛の嵐だった、34位『Your Favorite Things』(柴田聡子)が最高位だった。2月のリリースという事もあってじっくり評価できる時間があったことも追い風にはなっただろうが、勿論それだけではない名盤の風格が当初からそなわっていた確かな一枚。
 33位 『HOSONO HOUSE』細野晴臣(1973年、前回19位)。若干順位をおとしたものの、ハリー・スタイルズが22年に本作からインスピレーションを得たアルバムを発表したり、トリビュートアルバムがでたり、相変わらず話題に事欠かなかった。個人的には、エキゾチックサウンドを志向し、それに海外からみた日本の間違ったイメージをあえて重ねて国籍不明な音楽を作り出した『泰安洋行』(1976年、85位)が細野晴臣最高傑作だと思っている。

『[lust]』レイ・ハラカミ

 32位 『[lust]』レイ・ハラカミ(2005年、前回58位)。純然たるエレクトロニカのアルバム最高位が本作。前回複数枚ランクインしていた電気グルーヴが今回ランク外だったり、テクノ、電子音楽、エレクトロニカなどには厳しい内容ではあった。同ジャンルについてはまた別記事で語っていきたい。
 残念なら2025年での活動休止が発表されたフジファブリック。最高位は今や音楽の教科書にも載っている「若者のすべて」を含む『TEENAGER』31位(2008年、前回54位)。同曲だけがクローズアップされがちだが、フジならではのユーモアの変態性の高いバンドサウンドと歌詞が絶妙なバランスで提示される優れたアルバム。フジは他にデビュー作『フジファブリック』が72位にランクイン。

30位から21位

30位『新しい果実』GRAPEVINE(2021年)689点(前回-位)
29位『SONGS』シュガー・ベイブ(1975年)695点(前回30位)
28位『深海』Mr.Children(1996年)698点(前回115位)
27位『THE WORLD IS MINE』くるり(2002年)705点(前回48位)
26位『CAMERA TALK』フリッパーズ・ギター(1990年)719点(前回35位)
25位『名前をつけてやる』スピッツ(1991年)732点(前回26位)
24位『98.12.28 男達の別れ』フィッシュマンズ(1999)747点(前回104位)
23位『sakanaction』サカナクション(2013)748点(前回181位)
22位『andymori』andymori(2009)752点(前回83位)
21位『3x3x3』ゆらゆら帝国(1998)768点(前回16位)
『新しい果実』GRAPEVINE

 30位 『新しい果実』GRAPEVINE(2021年) 。長年この手のランキングにはヒット作でもあり、ギターアンサンブルとしっかりとしたソングライティングが見事な融和を見せる『Lifetime』(91位)が定番だったが、コロナ禍での混沌とした状況を見事に昇華して彼ら流のソウルミュージックにのせ、バンドの進化と貫禄を見せつけてくれた本作が上位にランクイン。
 同じく、阪神淡路大震災やオウム真理教がらみの事件が深刻な影を落としていた当時の時代のムードを少なからず内包しているダークなコンセプトアルバム 『深海』(1996年、前回115位)が28位Mr.Childrenは前回一枚も100位圏内のアルバムがなかったが、今回は『深海』のほかに、キャリアの中でも実験的な『Q』も100位 (前回290位)にランクインしている。セールスは彼らの中では振るわなかったが、ソングライティングの水準も高く、青春時代にミスチルを通ってきた音楽マニアの間では結構人気がある一枚。

『THE WORLD IS MINE』くるり

 『深海』 『新しい果実』同様キャリアの中ではかなりダークなムードを放つ『THE WORLD IS MINE』(2002年、前回48位)が27位くるりの中で最上位。これら3枚は発表された年代がバラバラだが、90年代デビュー組の優れたバンド三組の最上位の3枚が20位代に固まったこと、勿論偶然の要素も大きいが、まるで2024年現在の殺伐とした世界を改めて表象しているかのように感じられ、妙なところで今っぽさを感じた。
 くるりは他に、ジム・オルークをプロデューサーに迎え、オルタナティブロックの見本市の様相を呈した63位 『図鑑』(2000年、前回31位)、オーケストラとの共演で新たな天地に到達した61位 『ワルツを踊れ Tanz Walzer』(2007年、前回36位)、メンバーチェンジの結果バンドアンサンブルの完成を見せた56位 『アンテナ』(2004年、前回86位)、エレクトロニカとバンドサウンドの理想的融合を見せた42位 『TEAM ROCK』(2001年、前回39位)と実に5枚もランクインさせて異様な強さを見せつけた。正直くるり好きな筆者でも多すぎてウンザリするぐらいで批判も多かったが、前述したようにそれぞれ特徴の異なる優れた作品なので、これらのランクイン自体には納得せざるを得ない。前回と順位がそれぞれ異なる点も興味深い。
 29位 『SONGS』シュガー・ベイブ(1975年、前回30位)。山下達郎大貫妙子のダブルボーカルの伝説的バンドの最初で最後の一枚が順位はほぼ変わらず上位にランクイン。のちの二人のキャリアと比べるとまだまだ荒削りな部分が多いアルバムだが、それが欠点ではなく魅力になっており、エヴァーグリーンな輝きを放っている。ポップでファンキーで、バンドミュージックの快楽性にあふれたその音楽性は、ミカバンドの『黒船』同様、今の邦楽バンドシーンと重なるところも多く、それが上位になった秘訣かもしれない。

『sakanaction』サカナクション

 23位 『sakanaction』サカナクション(2013年、前回181位)。サカナクションも前回はランク外で、バンプ同様にランキング自体の世代交代を感じさせられるランクインだった。エレクトロニカを今まで以上に本格導入した本作が最高位だったのだが、キャリアの中ではある種振り切った一枚で、本作に彼らの魅力のすべてが詰まっているわけでもないので、これ一枚だけがクローズアップされるのはもったいない気もする。

20位から11位

20位『3』キリンジ(2000)771点(前回15位)
19位『宇宙 日本 世田谷』フィッシュマンズ(1997)789点(前回12位)
18位『ハチミツ』スピッツ(1995)807点(前回126位)
17位『風街ろまん』はっぴいえんど(1971)830点(前回2位)
16位『平成』折坂悠太(2018)838点(前回32位)
15位『BADモード』宇多田ヒカル(2022)850点(前回-位)
14位『GEAR BLUES』THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(1998)868点(前回9位)
13位『犬は吠えるがキャラバンは進む』小沢健二(1993)869点(前回49位)
12位『ファンファーレと熱狂』andymori(2010)903点(前回10位)
11位『e o』 cero(2023)922点(前回-位)

 20位 『3』キリンジ(2000年、前回15位)。同作収録の「エイリアンズ」があまりにも擦られ過ぎた反動かもしれない。若干順位を落とした。そのかわりといっては何だが、逆に順位を上げたのがデビュー作の 『ペイパードライヴァーズミュージック』(1998年) 。前回73位だったのが、今回48位まで浮上。『3』は彼ららしいアクの強さが際立つ名盤だが、『ペイパードライヴァーズミュージック』は完成度は『3』並みにすでに高く、アクの強さはそこまででもないので聴きやすいのもあるかもしれない。今後順位が逆転したら面白いし、ありえないことではないと思う。KIRINJI名義での代表作『cherish』も同様の評価を得てほしい。

『ハチミツ』スピッツ

 18位 『ハチミツ』スピッツ(1995年、前回126位)。前回100位圏外だった大ヒットアルバムが一番上位に。セールスとバンドの一つのピークが重なった極めて幸福な例だと思う。スピッツは他にも、亀田誠治体制が始まった『三日月ロック』(2002、前回108位)が62位。シューゲイズ名盤としての評価も高い『名前をつけてやる』(1991年、前回26位)が25位、ブレイク後にセルフプロデュースに戻った『フェイクファー』(1998年、67位)がランクイン。言わずと知れた国民的人気を誇るロックバンドで、評論家や音楽マニアからの支持も厚いバンドだが、それが票に反映された結果と言える。
 発表時に一番驚きの声が多かったのが、前回2位だった 『風街ろまん』(はっぴいえんど)17位への陥落だった。メンバー四人全員がそれぞれ邦楽ポピュラーミュージック史に大きな影響をもたらしたこと、日本語ロックの一つの形を完成させてしまったこと、古き良き東京へのノスタルジーを反映させたコンセプトアルバムであること、そしてザ・バンドやバッファロー・スプリングフィールドなどの影響を上手に評価した完成度の高いバンドアレンジ等、様々な角度から評価されうる歴史的名盤だが、価値観や評価軸はどんどん変化していくということを一番体現してくれた順位変動だった。

『平成』折坂悠太

 16位 『平成』折坂悠太。前回32位だったが今回大きくランクアップ。高田渡遠藤賢司三上寛友川カズキなど、優れた日本のフォークの名盤が入らずに残念ではあったが、現代的にアップデートされたフォークアルバムでもある本作や、骨太なフォークロックのカネコアヤノが評価されているから十分なのかもしれない。しかし、本人の表現は本作以降どんどん前に進んでいるのにこのアルバムだけが注目され続けているのもなかなか複雑ではある。
 2023年の末にボーカルのチバユウスケが亡くなったショックがまだ大きい中、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTはキャリアの中で最もヘビーでハードなサウンドの 『GEAR BLUES』(1998年、前回9位)が14位にランクイン。前回はセカンドの『High Time』、サードの『Chicken Zombies』も100位圏内にランクインしていたが今回は圏外。むしろ『GEAR BLUES』よりもバンドとしての一体感がえげつなかったこれらの二枚がランク外になってしまったのは非常に残念。
 ミッシェル同様、バンドの一つの理想像として今なお人気と評価の高い、andymori 『ファンファーレと熱狂』(前回10位)が12位にランクイン。TikTokでバズってバイラルヒットとなった「すごい速さ」を収録のファーストは 『andymori』22位(前回83位)と順位を大きく上げている。

『BADモード』宇多田ヒカル

 2020年代に発表された近作が11枚と多くランクイン、しかもそのうち6枚は50位以上とだったのも今回興味深い結果だったが、10位代にも二枚、2020年代のアルバムが食い込んでいた。まずは15位 『BADモード』宇多田ヒカル(2022年) 。以前からのロンドン人脈がフルに発揮されているが、J-POP的な接点も勿論残した作風となった。宇多田ヒカルのランクイン作品は他に、本作につながる音楽性を獲得し、大きな転機となった『Fantôme』(2016年、前回114位) が70位、邦楽史上最多の売り上げを誇るデビュー作『First Love』(1999年、前回62位)が59位だった。

『e o』 cero

 そして2020年代のアルバムで最上位は11位 『e o』 cero(2023年) 。10年代のバンド表現を切り開いてきた彼らだったが、本作で更なる新天地を切り開いたのは新たな驚きだった。彼らのもともとの武器だったリズムにコードやコーラスのゴージャスさも加わって、名盤としてのただならぬ風格を感じさせる一枚となっている。ceroは他に、53位 『Obscure Ride』(2015年、前回23位) 84位『POLY LIFE MULTI SOUL』(2018年、前回68位)と他のアルバムは順位を落としているが、それだけ本作に票が集まったともいえる。今後このアルバムはどのような評価がされていくのだろうか。バンドがどうなっていくかも含めて非常に楽しみ。

10位から1位

10位『スリーアウトチェンジ』SUPERCAR(1998)993点(前回21位)
9位『FANTASMA』Cornelius(1997)1012点(前回5位)
8位『ハイファイ新書』相対性理論(2009)1018点(前回47位)
7位『A LONG VACATION』大滝詠一(1981)1031点(前回4位)
6位『金字塔』中村一義(1997)1064点(前回11位)
5位『DOCTOR HEAD’S WORLD TOWER -ヘッド博士の世界塔- 』フリッパーズ・ギター(1991)1099点(前回8位)
4位『無罪モラトリアム』椎名林檎(1999)1116点(前回7位)
3位『空中キャンプ』フィッシュマンズ (1996)1345点(前回3位)
2位『空洞です』ゆらゆら帝国(2007)1456点(前回1位)
1位『LIFE』小沢健二(1994)1503点(前回6位)
『スリーアウトチェンジ』SUPERCAR

 最近ではシューゲイズ文脈の中で高評価を得ている『スリーアウトチェンジ』(SUPERCAR)10位とトップ10入り。SUPERCARは他に、大胆にエレクトロニカを取り入れた『HIGHVISION』46位にランクイン。両極端の音楽性のアルバムを二枚高順位に送り込んだ。SUPERCAR、くるり、NUMBER GIRLといったいわゆる「97年組」と言われていたバンドが三者三様の存在感をランキングの中でしめした。

中村一義『金字塔』

 そして同じく「97年組」の中に含まれて語られることも多い、中村一義のデビューアルバム『金字塔』(1997年) が6位。前回11位と若干だが順位を上げた。派手な話題が直近であったわけでもないし、現在の音楽シーンとの関連もあまり見いだせない音楽性だけに、正直今回順位を上げるとは思ってもみなかった。今だにコアなファンの人気と評価の根強さを感じたし、それだけ彼の個性が際立っているといえる。中村一義は他に79位によりロック色の強い『ERA』(2000年)がランクイン。

『無罪モラトリアム』椎名林檎

 同じくその世界観と当人のキャラクターで、現在でもなおその影響下にあるアーティストを多く輩出している椎名林檎。衝撃的デビュー作『無罪モラトリアム』(1999年、前回7位)が4位 、ヒット曲を複数含みつつもアルバムとしての流れの強度を増したセカンド『勝訴ストリップ』(2000年)が37位 、さらに様々な音楽性を取り入れた意欲作 『加爾基 精液 栗の花』(2003年) が66位と今回は初期三枚がすべてランクインした。

『ハイファイ新書』相対性理論

 そして現在のバンドシーンだけに目を向けるなら、その影響力は椎名林檎以上ともいえる相対性理論だが『ハイファイ新書』(2009年) が8位と、前回の47位から大きくランクアップして10位以内にアルバムをランクインさせた。椎名林檎同様、やくしまるえつこのキャラクターが重要なバンドではあるが、本作で作詞作曲の殆どを手掛ける真部脩一が提示した曲の世界観とバンドの演奏ががっちり噛み合ったからこそ強度の高い作品になっている。

『A LONG VACATION』大滝詠一

 7位 『A LONG VACATION』大滝詠一。シティポップ関連のアルバムがあまり振るわなかったが、これだけは確固たる支持を継続。最もジャケットがシティポップ文脈に合致しているだけで、内容としては大半のシティポップと違ってファンク、ディスコの影響が薄く、アメリカポップ黄金時代のサウンドの再編集ベスト盤みたいな内容になっているので個人的には同文脈ではあまり語りたくはない。大滝詠一ではこれだけが邦楽ランキング常連だが、ノベルティソングを追求し、彼らしいユーモアとリズム、言葉の面白さが爆発した『NIAGARA MOON』なども評価されてほしい。

『空中キャンプ』フィッシュマンズ

 近年では海外からの評価ももはや当たり前のものとして受け入れられつつあるフィッシュマンズ。最高位は 『空中キャンプ』 (1996年、前回3位)の3位だった。メンバーの脱退や録音環境の変化もあり、彼らにしてはロック色の強かった前作『ORANGE』から音楽性を変化させて現在の盤石な評価につながる音楽性を獲得した転機となる一枚。フィッシュマンズは他に、本作以降の作品、先に取り上げたライブ盤『98.12.28 男達の別れ』と19位『宇宙 日本 世田谷』(1997年、前回12位)、36位 『LONG SEASON』計四枚がランクインした。

『空洞です』ゆらゆら帝国

 前回1位だった、『空洞です』ゆらゆら帝国)は今回惜しくも2位。ゆら帝は前述したライブ盤のほかに、メジャーデビュー作 『3x3x3』(1998年、前回16位)が21位にランクイン。サイケデリックロック、ガレージロックのエッセンスを現代的に昇華、シンプルでソリッドなロックアルバム『3x3x3』、バンド表現を突き詰め、様々な音楽性を細かく租借したうえで、最低限の編成でミニマルだが奥行の深い独自のアートロックを構築した『空洞です』とそれぞれキャリア両極端のアルバムがいずれも高順位にランクインしている。くるりやSUPERCARもそうだが、ランクインしているアルバムそれぞれ音楽性が異なるので、熱烈な支持者が同一アーティストのアルバムを複数投票したというよりは、各々別のニーズがあってランクインしている印象がある。

『DOCTOR HEAD’S WORLD TOWER -ヘッド博士の世界塔- 』フリッパーズ・ギター

 それは5位『DOCTOR HEAD’S WORLD TOWER -ヘッド博士の世界塔- 』(1991年、前回8位)をランクインさせたフリッパーズ・ギターも同様で、ネオアコ、ギターポップのエッセンスを抽出して全編英語詞で展開させてみせたデビュー作『three cheers for our side 〜海へ行くつもりじゃなかった〜』(1989年)が90位、打って変わって日本語詞で、さらに音楽性を広げたセカンド『CAMERA TALK』(1990年) を26位と、違った毛色で完成度の高いアルバムを発表していることもあって、3枚のオリジナルアルバムすべてがランクインしていた。
 『ヘッド博士』はサブスクにはないアルバムの中で最高位。サンプリング関連のクリアランスでサブスクは無理だと言われているが、一部楽曲はサブスクでも聴けるし、アルバム自体は廃盤になってはいるものの、中古市場でもそれほど高騰しているわけでもないので比較的アクセスはしやすい。勿論中身の良さもあるが、程よいレア感も相まってのこの順位だと思う。

『FANTASMA』Cornelius

 そして元フリッパーズ・ギターの二人のソロ作品も当然のように上位にランクイン。まずはCornelius小山田圭吾)の作品が9位に 『FANTASMA』(1997年、前回5位)45位に『POINT』(2001年、前回13位)と二作ランクインしている。この前回開催からの4年間は小山田氏にとっては、コロナ禍におけるライブ活動の自粛にはじまり、オリンピック曲提供に端を発したバッシングがあり、壮絶な4年間だったわけだが、活動再開し、新作も無事リリースされている。

小沢健二『LIFE』

 そして栄えある第1位は、そのフリッパーズ・ギターのもう一人のメンバーでだった小沢健二のセカンドアルバム『LIFE』(1994年、前回6位)。大ヒットしたアルバム、本人のキャラクターの特性もあって1位だった反発も大きかった。バブルの余韻を感じさせる当時の生活の豊かさをにじませ、一見馬鹿馬鹿しいまでに無邪気に感じられる歌詞やとことんポップなサウンドは、今の殺伐とした時代にそぐわないとみなした人も多かった。が、むしろそれは空元気として空虚に響く瞬間もあり(それは一見リゾートアルバムみたいな外見をしている『A LONG VACATION』とも共通する)、その明るさが逆に怖いぐらいだ。そういう意味で逆説的に今の時代にマッチしているのではないだろうか。投票の直前に再現ライブもあったりして追い風はあったものの、象徴的な1位だったと思う。小沢健二は他に13位にソロデビュー作 『犬は吠えるがキャラバンは進む』(前回49位)もランクイン、順位をあげている。サブスクにないので人によっては若干アクセスし辛いが、より作家の心情がストレートに表れているように思われるこっちのアルバムを聴くと、『LIFE』の印象も大分変化すると思う。

まとめ

 相変わらず一部のアーティストが3枚以上のアルバムをランクインさせるいびつさはあるものの、定番と呼ばれるアルバムが入ってこなかったり、近年のアルバムが多かったりとなかなか今を反映した面白いランキングになったと思う。とはいえ、本文でも触れた通り、日本語ラップや電子音楽、R&B、V系、ボカロ、アイドル、売れ筋のアルバムなどが殆どもしくは全く入ってこなかったという意見は多く、やはりロックに大きく偏った内容ではあった。それはロックがやはりアルバムオリエンテッドなジャンルであることからアルバム単位で見たランキングへの親和性が高いということも大きく関係してくるとは思う。とはいえこのランキングは得票数を機械的に並べただけの無編集なもので(だから結果に対して私が批判を受けるのはお門違いなのだが)、名高いものが上位に来るのは至極当然ではあり、それぞれの投票者の30枚はそれぞれに個性的で面白いものであった。それを示すためにもジャンルごとのランキングや101位以下のランキング内容などの補足記事を、これから何本か掲載していく予定ではある。

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