はい、今回はMr.Childrenの1997年発表の6枚目のアルバム『BOLERO』(ボレロ)を全曲解説していきます。
このアルバムの大きな特徴はミスチルの全盛期ともいえるようなヒット曲連発のシングル曲を5曲も収録したとんでもないアルバムというところですね。
ということでミスチルのアルバムの中でも評価が高いほうなのでは?と思うかもしれないですけど意外とそうでもなかったりします。
ということでその理由や本作の特徴、当時の背景なども含めて全曲解説していきます。
ベスト盤の様なアルバム『BOLERO』(ボレロ)
実は『深海』同様、『BOLERO』はちょっと説明が必要なアルバムです。4枚目の『Atomic Heart』以降に発売されたシングル曲4曲、
6thシングル「Tomorrow never knows」
7thシングル「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」
8thシングル「【es】 〜Theme of es〜」
9thシングル「シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜」
は、アルバムのコンセプトにそぐわないという理由から『深海』には未収録となっていたのですね。
そのため、本作には『深海』より前のシングル4曲と『深海』以降の曲が同居しているんです。
ミスチルの変化を時系列順に考える時に先のシングル4曲と、『BOLERO』初収録のアルバム曲に直前のシングル「everything -it’s you-」の6曲は、ある種別物として考えなくてはならないとは思います。
そういう歪な収録形態になっているため、なんと5曲もシングル曲が入ったベスト盤的なアルバムになってしまいました。
また、シングルが多い事もあって、12曲中8曲もプロモーションビデオがあるという何とも贅沢なアルバムになっています。
前作の『深海』のPVが「花」だけだった事を考慮すると違いが歴然ですね。
というわけでほとんどの曲が既存の曲だったので、前作『深海』から約8ヶ月と割と早いスパンで発表されました。
そして内容が内容なだけあって、累計売上は300万枚以上と大ヒットを記録しました。
さらに『Mr.Children 1992-1995』に4曲『Mr.Children 1996-2000』に2曲と、なんとベストアルバムに12曲中6曲が収録されています。
12曲のうち「prologue」は 「Everything (It’s you)」の導入曲のような扱いなので実質は11曲のうち半数以上がベストに収録されていることになります。
そうなんですとんでもないアルバムなんです。
ところが『深海』でミスチルは劇的な変化を遂げてしまったため、『深海』以前のシングルとその他アルバム曲とで歌い方だったり、アレンジの特徴に開きがあるんです。
その違いの差をどう受け入れるかが、このアルバムの評価の分かれ目なのかなと思います。
それでは早速曲紹介いきます。
1. prologue
オーケストラがチューニングしているような雰囲気から徐々に音がそろっていき、次に繋がるように盛り上がっているインストゥルメンタル。
前作『深海』が基本的にバンドのみの作りだったのにたいし、今作はのっけからオーケストラで始まり、そして実際オーケストラを大胆にフィーチャーした楽曲が多かったりしますね(「【es】 〜Theme of es〜」「シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜」「ボレロ」)。
2. Everything (It’s you)
13thシングル。
トレモロという音を揺らすエフェクトがかかったギターのイントロで始まります。
この音色がほぼ全編にわたって響いていますので響きがゴージャスです。
なるべく少ない編成で、音色もアコースティックでブルースや泥臭いロックやフォークのようなザラッとした質感の曲ばかりの『深海』から明確に違いがありますね。
バンドっぽさを残しつつもポップなバラードに仕上がっているのがミスチルっぽいです。
歌詞のことを少し突き詰めましょう。
この曲も「innocent world」から脈々と続いている人生振り返り系のAメロで始まります。
世間知らずだった少年時代から
自分だけを信じてきたけど
だた他の曲と違うのはサビでの結論は大事なのは君だって言うラブソングに落ち着く所なんですね。
紆余曲折あったけどいま一番大事なのは君で、君を守りたいと。
STAY 何を犠牲にしても 守るべきものがあるとして
僕にとって今君が それにあたると思うんだよ
今まではそれでも明日に向かって行こうという結論が多かったですけどここではラブソングに終着しています。
またミスチルにしてはサビの歌詞が少なくて面白いです。
ミスチルは結構サビに歌詞を詰め込むタイプなんですけど、1番のサビなんてさっき出てきたStayから始まる2行だけなんですよね。
これは「STAY」と「して」で小節数を稼いでいるから、サビで言葉が少なくなっているんです。
3. タイムマシーンに乗って
前作『深海』の延長線上にある作風のやさぐれたロックナンバー。
歌詞の内容も皮肉たっぷりで社会風刺的です。
管理下の教室で 教科書を広げ
平均的をこよなく愛し
わずかにあるマネーで 誰かの猿真似
それが僕たちの世代です
厭世的なムードも引き続きあります。
というか強くなっている気がしますね。
侵略の罪を 敗戦の傷を
アッハッハ 嘲笑うように
足並み揃えて 価値観は崩壊してる
オットット こりゃまるでタイトロープダンシング
『深海』以前の大ヒットシングルが収録されていることでごまかされていますが、本作『深海』よりも厭世的で社会批判的ムードの強い作品かもしれないですね。
How do you feel?
どうか教えておくれ
この世に生まれた気分はどんなだい?
サビではHow do you feel?
と、リスナーにこの混沌とした現代についてどう感じているんだい? と、問いかけてくる一曲。
このHow do you feel? の問いかけといえば、ボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」という曲を想起させます。
ディランの曲もサビの部分でひたすらHow do you feel? と問いかけてくるんですね。
この曲はミュージック・ビデオが製作されてます。
みんな髪が長い笑。
それにしても桜井さんの歌い方含めロックバンドしているナンバーですので、ミスチルが軟弱なポップバンドだと思っている人には是非聴いてもらいたい一曲です。
とくにJEN(鈴木さん)のドラムがカッコいいですね。
4. Brandnew my lover
『Atomic Heart』の「ジェラシー」や『深海』の「虜」を更にどぎつくした様な歪な愛を描いたロックナンバー。
前作との大きな違いは前作はロック調でもアナログ偏重だったのに対して、今作ではより機械的なギターの歪みやエフェクト、打ち込みっぽいシンセのサウンドをフィーチャーしていると言う所ですね。
そういう意味ではアトミックハートのテクノロジーと『深海』のアナログ、ロックバンドとしてのソリッド感のハイブリッドと言える音楽性の一曲です。
知り合いの女性ファンがこの曲を「なんだかしらないけど怖い曲」といっていました笑。
5. 【es】 〜Theme of es〜
『深海』より前に発表された8thシングル。
アコースティックギターの弾き語りで始まり、徐々に盛り上がりを見せるナンバー。
オーケストラとバンド共演というべき、かなりオーケストラを前面にもってきたアレンジです。
そういう意味では本作の雰囲気にはマッチした一曲ですね。
エレキシタールがアクセント的に入っており、こういうアレンジは小林武史さんはすきだよなぁって思ってしまいます。
Aメロは結構音程低めのメロディでブリッジではかなり高いところまで行きますね。
一曲での音域が広いことからミスチルはカラオケでの難易度が相当高いバンドとしても有名です。
タイトルの副題に 〜Theme of es〜とありますが、この曲はドキュメンタリー映画『【es】 Mr.Children in FILM』の主題歌になってもいます。
タイトルにあるエスとは精神分析学の用語で、簡単にいってしまえば人間にある無意識の本能的な衝動やエネルギーをつかさどる部分とされます。
「この無意識な衝動が僕をつきうごかす」というのが一つのテーマになっています。
何が起こっても変じゃない
そんな時代さ覚悟はできてる
というサビのフレーズが印象的です。
この曲は1995年の5月に発表されたんですが、この年の前半に何があったかというと、1月に阪神淡路大震災、3月に地下鉄サリン事件があったんですね。
この曲がつくられたのがこれらの事件の直後だったのか、リリース時期からはわかりかねますが、「何が起こっても変じゃない」という時代感覚は本当にあったんですね。
しかしこの頃はまだ桜井さんは余裕があったのか、それに対する覚悟は出来ていて、何が起こっても自分の中の欲求が突き動かす通りに進んでいこうという前向きな歌になっています。
これがだんだんとギスギスしたムードになっていき、『深海』や本作『BOLERO』のアルバム曲みたいな厭世的なムードになっていきます。
6. シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜
9thシングル。イギリスの著名なロックシンガー、エルヴィス・コステロをパロディーにした歌い方で有名な曲。
プロモーションビデオでも思い切りコステロに寄せた格好、動きを桜井さんはしてましたね。
声もにてるんです。
この時期にしては珍しくシリアスなムード、ダークなムードががほとんどなく、アップテンポで明るいラブソングです。
なのでこのアルバムではホッと一息できる様な曲でもありますし、全体から浮いているとも言えますね。
曲調もそうですが『【es】 〜Theme of es〜 』同様オーケストラをふんだんに使用しており、そういう意味でもバンドのみの演奏が主体の『深海』にはいれられなかったろうなと思います。
7. 傘の下の君に告ぐ
全編当時の日本の状態に対する社会批判的な内容で、『深海』の路線と地続きといえます。
「タイムマシーンに乗って」に勝るとも劣らないの痛烈な社会批判が並ぶナンバーですね。
これぐらい強いメッセージ性を打ち出していたミスチルですが、近作では社会批判的なナンバーはすっかり少なくなるかマイルドになりました。
ここで歌われている状況は変わっていないかむしろ深刻になっている感はあるんですけどね。
サウンド的にはバンドの演奏に加えてサックスを結構重点的にフィーチャーしています。
『Atomic Heart』の頃は管楽器のソロは多めだったりするのでミスチル的には珍しくないですね。
8. ALIVE [6:39]
アルバム中最もダークなムードを醸し出している曲。しかしながらベストにも収録されている名曲です。Aメロ、Bメロで現状に対する不満、鬱屈した感情、絶望や疲れを歌っています。
この感情は何だろう
無性に腹立つんだよ
自分を押し殺したはずなのに
馬鹿げた仕事を終え
環状線で家路を辿る車の中で
しかしながらサビでは「それでも前に進んでいこうという」前向きなメッセージ。
夢はなくとも 希望はなくとも
目の前の遥かな道を
やがて何処かで 光は射すだろう
その日まで魂は燃え
これは構造としては「花-Memento-Mori-」とほとんど一緒です。
ただ花と違うのは「花」は「他人と自分を比べて惨めになる事もあるが、自分らしく行こう」というメッセージに対し、「Alive」は「世の中や社会全体に対する厭世的な態度、世の中は良くはならないと言うような諦念」の中で「それでもやっていけばなんとかなるだろう」と無理矢理鼓舞しているようなメッセージになってます。
サウンドも対照的でアコースティックでフォークロック的な「花」に対し、こちらは打ち込みのリズムとシンセサイザーに歪んだギターの曲です。
この曲にもプロモーションビデオがあって、それぞれのメンバーが正面を向いているショットがあるんでふが、いつもふざけてはっちゃけているドラムの鈴木さんのショットになると失礼ですけど笑っちゃうんですよね笑。
9. 幸せのカテゴリー
終わってしまった恋を振り返り、しんみりするような、清々したような、そんな心持をうたったラブソング。
サウンドはさわやかでギスギスした曲が2曲つづいたあとでさわやかで心地よいです。
とくにヴィブラフォン(鉄琴)の音色が全体のやわらかさに一役かっています。
しかしながらそんなサウンドとは裏腹に歌詞は皮肉がきいてますね。
10. everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-
7thシングル。作曲:桜井和寿・小林武史の本作唯一の共作曲にしてこの二人の共作はこれで最後になりました。
ロックバンドとしてのミスチルが前面に出た最初のシングル。
各プレイヤーの演奏もカッコいいです。
また社会批判的なメッセージを前面に押し出した最初のシングルでもあります。
使っている言葉も結構刺激的かつ攻撃的でちょっと今のミスチルからは考えられないですね。
『深海』から『BOLERO』につづくロックバンド期のミスチルの始まりを告げる一曲。
11. ボレロ
タイトルから連想されるようにクラシックの作曲家、モーリス・ラヴェルの「ボレロ」から大いに影響を受けたアレンジのナンバー。
打ち込みっぽいドラムビートとピアノの演奏から徐々にオーケストラが入って盛り上がって行きます。
これも「Alive」と一緒で厭世的なムードがあるんですけどこちらは恋人との恋愛に溺れる事で事なきを得ているというそんな歌笑。
これがエスカレートすると三曲目の「Brandnew my lover」になりそうです。
ところでこの曲のプロモーションビデオですが、桜井さんにひげが生えているんですね。
ひげの桜井さんは僕の記憶にある限りここでしかみたことないので貴重なんじゃないでしょうか。
12. Tomorrow never knows (remix)
200万枚以上を売り上げたミスチル最大のヒット曲。6thシングル。
ミスチルで1番ヒットした曲ですが、それだけのことはある何か普遍的なものを内包した楽曲だと思います。
直前のリリースがアルバム『Atomic Heart』、5枚目のシングルはあの「innocent world」です。
という事で1994年に発売されたこの曲はこのアルバムでは一番古い曲。
他の曲との違いはもっとも明確でして、歌い方も違いますし、声も若いですね。
そして最後に収められていて、割とちぐはぐなアルバム全体を無理矢理まとめ上げてしまうようなとんでもない名曲だとおもいます。
アルバム全体のギスギスしたイメージをすべて洗い流すかのような包容力があるんですよね。
色色とつらいことや世間の暗さなんかもあるけれど全部しょって明日に向かっていこうという力強いメッセージがあります。
果てしない闇の向こうに oh oh 手を伸ばそう
癒える事ない傷みなら いっそ引き連れて
少しぐらい はみだしたっていいさ oh oh 夢を描こう
誰かの為に生きてみたって oh oh Tomorrow never knows
心のまま僕はゆくのさ 誰も知る事のない明日へ
このメッセージはこのシングル以降、様々な方法や言い換えで『深海』や『BORELO』の楽曲郡に引き継がれていっていますから、その原点であり、既に到達点みたいなところがあります。
なんだかんだでミスチルで一曲だけ選べと言われたらこの曲を選びますかね。
歌詞の構造としては「innocent world」や「花-Memento-Mori-」本作にも収録された「everything -it’s you-」に近いのですがちょっと変則的です。
それらの曲ではAメロ、Bメロで人生を振り返って、サビで大きなテーマを歌う、でしたが、「Tomorrow never knows」では1番でまるっと歌の主人公の個人史を振り返ります。ですので1番のサビが説明的なんですね。
償うことさえできずに今日も傷みを抱き
夢中で駆け抜けるけれども まだ明日は見えず
勝利も敗北もないまま孤独なレースは続いてく
そして2番でより大きな、普遍的な話になっていきます。
人は悲しいぐらい忘れてゆく生きもの
愛される喜びも 寂しい過去も
今より前に進む為には
争いを避けて通れない
そんな風にして世界は今日も回り続けている
音楽的にはバンド主体の『深海』以降のながれと違ってピアノやシンセサイザーがメインの音像。
エコーがきちんとかかっていて、ざらついた生っぽさ重視の『深海』とは全然違いますね。
ソロもギターではなくサックスが担当しています。
さて、この曲remixとありますが、シングルバージョンとほぼ変わりはないです(リンクはシングルバージョン)。
打ち込みだったドラムが生演奏に差し換わっているみたいなのですが。
タイトルの「Tomorrow never knows」は洋楽ファンならピンとくるかも知れませんがビートルズの同名曲から来ています。
英語の言い回しとして破格というか、かなり特徴的なので明らかに引用なんですね。
しかし元のビートルズの曲とこの曲に音楽的歌詞的に共通点があるかといえばそうでもないんです。
ビートルズの方はかなり実験的な曲で、ドラムのループにお経のような歌が延々と続くという変な曲です。
かなり革命的な曲なんですけど雑に説明するとそうです笑。
おそらく「Tomorrow never knows」っていう語感に響くものがあったんでしょうね。
ミスチルと意外とこういう洋楽からの引用がおおかったりするのも面白いです。
興味あるかたは是非ビートルズの「Tomorrow never knows」も聴いてみてください。
全然違いますから笑。
まとめ
本作を発表後にミスチルは約一年の休業期間に入ります。
アルバム初披露曲からわかるとおり桜井さんがかなりやさぐれていた時期なので、休業もやむなしですね。
このころは不倫や離婚問題で私生活にも大きな変化がありましたしね。
さて、本作を通しで何度も聴きながらおもったのは「いい曲が沢山入っているのにトータルでみたら他のアルバムよりなぜか魅力にかけるところがある」ということです。
ベストアルバム的な内容といって差し支えないぐらいにミスチルの全盛期を捕らえたシングル群を収録し、アルバム曲も悪くないのに…。
好きな曲をピックアップしてバラバラに聴くと「名盤だな」と思うんですけどね。
やはり時期がバラバラだと統一感を出すには難しいですね。
かなり変化のあった時期ですしね。
とはいえ、全体としてのバランスはともかく曲は粒揃いですので未聴の方は是非聴いてみてください。