最近ミュージック・マガジンが50周年記念で毎号ベスト100ランキング企画をやっていて、それが毎回面白いです。
当ブログでも以前、「MUSIC MAGAZINE 邦楽アルバム・ベスト100によせて」という記事で、邦楽アルバムベスト100企画を取り上げてました。
2019年9月号は『50年のジャズ・アルバム・ベスト100』。
面白いのは対象となる年月なんですね。
一般的に50年代から60年代がジャズが一番勢いがあって面白かった時期と言われていると思うのですが、この特集ではあえてその時期を外しています。
ミュージック・マガジンが刊行された69年から現在までの50年間に発表されたJazzアルバムのベスト100を選出しようといいう企画なのです。
やはり筆者が慣れ親しんできたJazzも50年代から60年代のジャズが多いので、それ以降に発表されたジャズアルバムって本当にめちゃくちゃ有名なものしか聴いていないんですね。
どういうムーブメントや流れがあったかすらほとんど知らない。
これは面白そうだということで本屋に駆けつけて購入しました。
今回はその中身について話したいと思います。
ついでに当サイトおすすめのジャズ名盤も紹介いたします。
一応前置きとしていっておきますが、詳しい順位表を乗せるのは野暮なので、リストの詳細は述べませんし、一部ぼかすような言い方をします。あらかじめ了承ください。
最近ジャズがまた面白いことになってきている
このランキングの背景としてはここ最近のジャズシーンの活況ぶりも関係しているかと思います。
普通こういったランキングではどうしても最近のアルバムは選ばれにくい傾向にあるかと思いますが、今回は2010年以降のアルバムも8枚選ばれていました(後述する対談では少ないといわれていましたが)。
ここ数年話題になっていて、絶対に選ればれているだろうなと思ったカマシ・ワシントンも無事ランクインしていました。
マイルス強し
ジャズの歴史のなかで圧倒的な存在感をしめして来た人物を一人挙げよと言われたらそれはやっぱりマイルス・デイヴィスではないでしょうか。
マイルスの全盛期がいつであるかは、議論の分かれるところですが、69年以降のマイルスはファンクやロックにも傾倒し、その表現領域をどんどんジャズの外にも広げていった時期でもあります。
今回のランキングでもなんと6枚もランクインしていました。
意外な選盤
これがこの順位か!というのが今回結構多かったですね。
一位はとある大物のアルバムだったのですが、勉強不足の僕はそのアルバムの存在を知りませんでした。
またチック・コリアの『リターン・トゥー・フォーエヴァー』(Chick Corea Return to Forever)がかなりの上位にあってこれも驚きでした。
「うるさ型」のジャズファンからはポップ過ぎるとかいわれて批判されそうなアルバムですので、ランクインしたとしても、もっと下のほうかなと思っていました。
といっても僕は大好きなので、この順位は高すぎるかな、と思いつつも大満足でした。
また、ラウンジ・リザーズやジェームス・ブラッド・ウルマーなど、ニューウェーブやポストパンクなどの特集とかでもよく取り上げられるようなアーティスト、
ジョニ・ミッチェルの『シャドウス・アンド・ライト』(Joni Mitchell Shadows and Light)など、普段ロックの文脈で取り上げられることもあるアルバムが、ランクインしているだけでなく、結構な上位だったのも面白かったですね。
ランキングを俯瞰できる対談
以前同誌で『日本のヒップホップ・アルバム・ベスト100』をやったときにも、ランキング自体を批判する対談をのせていたりして、そういう意味でも好感がもてるんですけど、今回も、ランキングを振り返った対談が載っていてそれが凄く面白かったです。
評論家の柳樂光隆さんと村井康司さんの対談なんですけど、このランキングをもし他誌でやっていたらどうだったのか、そのスタンスの違いなどが語られていて、このランク自体の立ち位置みたいなものが確認できて非常に興味深いです。
おすすめの4枚
というわけでランキングの中から筆者のおススメを4枚紹介します。
- マイルス・デイヴィス『イン・ア・サイレント・ウェイ』(Miles Davis In A Silent Way)
僕が一番好きなマイルスのアルバムですね。
10位以内にランクインしていたので僕としては満足です。
2曲しか入ってないんですが、両曲とも宇宙的な壮大なスケールを感じる楽曲です。
エレクトロニカ、IDMにも通じるところもあり、それが高評価の一因かなとも思います。
- ハービー・ハンコック『ヘッド・ハンターズ』(Herbie Hancock Head Hunters)
高校の時から愛聴している名盤です。
ロック好きリスナーにもおすすすめですね。
聴きどころはなんといっても一曲目の「カメレオン」”Chameleon”。
必殺のリフでグイグイ聴かせるファンクナンバーなのですが、キーボードのソロがとにかく熱くてロック魂を感じます。
- ロバート・グラスパー・エクスペリメント『ブラック・レディオ』Robert Glasper Experiment Black Radio
これはR&BやHip Hopリスナーにもおすすめの一枚。
エリカ・バドゥも客演していますね。
驚きなのがなんとニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」をカバーしている事です。
これがかなりいいんですよね。
これだけギターのリフが有名な曲をジャズでどんな風に調理するんだろうって聴く前から興味ありましたが、原曲をばらばらにした奇をてらったものではなく、割とストレートなカバーでしかも原曲とはまた違う楽曲そのもののよさを引き出していて、さすがだなと思いました。
21世紀のジャズってこんな風になっているんだって識るための初めの一枚みたいな感じです。
- ブリジット・フォンテーヌ『ラジオのように』Brigitte Fontaine Comme à la radio
アート・アンサンブル・オブ・シカゴ(Art Ensemble Of Chicago)との共演作。
彼らの演奏をバックにブリジットが歌い、そして詩を朗読する表題曲がとにかく圧巻です。
この一曲だけでもとにかく一度は聴いてみていただきたいですね。
ランク外だけど、1969年から2018年までのおススメジャズアルバム3枚
今回のランクには入りませんでしたが、筆者がすきな1969年から2018年までのジャズアルバムを紹介します。
- ジム・ホール「アランフェス協奏曲」(Jim Hall Concierto)
これはミュージック・マガジンじゃなきゃ絶対にランクインしてそうなジャズの名盤です。
マイルスも取り上げたことのある表題曲が有名ですが、ヘリン・メリルの歌唱でも有名なジャズスタンダード「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」”You’d be so nice to come home to”がおススメ。
ドラムはスティーブ・ガッド。
ロック界でもおなじみのドラマーですね。
- チャーリー・ヘイデン&パット・メセニー『ミズーリの空高く』Charlie Haden & Pat Metheny Beyond the Missouri Sky
これはもうアルバムジャケットが全てを物語っているような美しい一枚ですね。
基本的にチャーリーのベースとパットのギターだけの演奏ですが、とても音楽的に豊で大満足の一枚だと思います。
おすすめは映画『ニュー・シネマ・パラダイス』のテーマ曲だった2曲のカバーで、映画に実際に使われているオーケストラの演奏よりも僕はこちらのバージョンの方が好きで、原曲越えのカバーといっても差支えないのでないでしょうか。
- マイルス・デイヴィス『ユア・アンダー・アレスト』(Miles Davis You’re Under Arrest)
またマイルスかい!と言われてしまいそうですが…。
ランキングで取り上げられている、ジャズの枠を超えた冒険的な試みをしているスリリングなマイルスではなく、マイケル・ジャクソンの「ヒューマン・ネイチャー」と、シンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」をカバーした比較的聴きやすいアルバム。
聴きどころはやはりこの二つのカバーで80年代当時のヒット曲をストレートにカバーして、原曲のメロディの美しさが際立つ、実に沁みる演奏です。
スティングもミュージシャンとしてでなく、曲中の寸劇の役者の一人として参加していますね。
まとめ
ということで『ミュージック・マガジン』らしい面白い偏り方をしているランキングではありますが、いわゆるジャズ全盛期以降のジャズのガイドブックとして有益で手ごろな一冊だと思いますので、興味を持たれたかたは是非。
在庫さえあればネットで買えますし、書店を通じても入手可能です(詳しくは公式Webサイトをご覧ください)。