今回は大胆なメンバーチェンジを経て制作されたオアシス5枚目のアルバム『ヒーザン・ケミストリー』(Heathen Chemistry)について語っていきたいと思います。
やはりオアシスといえば最初の2枚に話題は偏りがちですが、僕はなかなかこの5枚目の好きなんですよね。
まあ初めて聴いたときは期待も大きかったのでちょっとがっかりしたんですけど、それはオアシスアルバムあるあるということで…。
1. 衝撃的なニュース
2000年代初頭、元ライド (Ride) のギタリスト、アンディ・ベルがオアシス (Oasis) に加入すると聞いたとき、とても興奮したのを覚えています。
ロックスター然としたふてぶてしさと、超王道のキャッチーなロックを奏でていたオアシス。
きらびやかで美しく、幻想的なギターポップ・シューゲイザーサウンドのライド。
この2つが理想的に融合したスーパーバンドが誕生するという期待があったからでした。
オアシスとライドの組み合わせは悪くないどころか最高の部類だと思います。
どちらも初期は轟音ギターサウンドにポップな曲の組み合わせで売っていたバンドだからです。
ただバンドとしてのたたずまいは全然違っています。
古くからの工業地帯であるマンチェスター出身のオアシスは、いかにも労働者階級出身バンドらしい荒々しさと、ビックマウスっぷりで人気を博していました。
一方でオックスフォード出身のライドはその逆で実に爽やかでもっと知的な印象でした。
2. アンディに期待していたもの
ライドの中心人物でメインのソングライターの一人だったアンディ・ベル。
そのアンディがオアシスに加入すると聞いて、オアシスの音楽、またはバンドとしてのあり方に、どのような変化が生ずるか非常に興味がそそられたのです。
つまり、
①アンディのポップセンスあふれる楽曲を書く才能→オアシスの楽曲の質、バラエティー性の強化、場合によってはオアシスの作曲を一人で担っていたノエルとの共作。
②ライドの特長的なキラキラとしたギターサウンド→オアシスの楽曲にあのギターの音が入る。
上記の効果を期待していたわけです。
ところがアンディがオアシスに加入するそのパートはベースだと聞いたときに嫌な予感がしました。
「なぜベース??」
アンディはライドではギターを担当していて、それがライドのサウンドの要になっていたのです。
3.『ヒーザン・ケミストリー』
嫌な予感は的中しちゃったんですよね。
アンディが初参加したアルバム、『ヒーザン・ケミストリー』はオアシスとライドを足して2で割ったような夢のサウンドじゃなかったんです。
なので期待ハズレは当然といえば当然だったかもしれません。
ひとつ誤解してほしくないのは、個人的にはそのアルバム自体は結構好きでした。
期待していたアンディとノエルの共作曲はもちろんなかったし、そもそもアンディが提供した曲はインストルメンタル1曲だけでした。
しかし、ボーカルのリアム・ギャラガーが作曲した曲が増え、それもシングルカットされるほどのいい曲(Songbird)であり、アンディと同じく強化要員として加入した、ゲム・アーチャーも1曲提供するなど、①で期待していた複数のソングライター体制と楽曲のバラエティー性の強化は図らずとも別の形で成し遂げられたのです。
しかし、こちらが期待したオアシスでなかったことは事実です。
その後のオアシスの活動についても、アルバムを出すたびに、アンディがライドでやっていたようなサウンドをオアシスでやる事を勝手に期待してたんですけどね。
ここからはアルバムの曲を何曲か解説していきます。
The Hindu Times
オープニングトラック。
あんまり話題にならないですけど、かなりカッコいい曲ですよね。
タイトル通り確かにメインのギターリフはインドっぽさがあります。
Force of Nature
ノエルボーカル。
イギー・ポップの「Nightclubbing」からヒントを得て作成されたようで、確かにイントロからずっと続く打ち込みのドラムがそれっぽいですね。
ただ、イギー・ポップの怪しさ満点の楽曲と違って、こちらはちょっとのんびりしたような間延びしたような感じの曲ですね。
Songbird
メインソングライターのノエルではなく、リアムが単独で作ったシンプルで美しいナンバー。
アコースティックギターとオルガンやピアノ、タンバリンとボーカルのみというアコースティックな編成でアレンジも曲調もシンプル。
リアムの曲で初めてシングルカットされたナンバーでもあります。
A Quick Peep
アンディ・ベルが今作用に唯一書き下ろしたインストナンバー。
うーん。アンディの活躍に期待していたのにこれ一曲のみで、しかも短いインスト曲だったのはかなりがっかりした覚えがあります。
正直演奏能力はライドのほうが断然高いのでライドでやればもうちょっと面白くなったかもしてませんが、どのみちいまいちでしたね……。
どちらかというと曲間のつなぎっぽい曲ですし。
4. 『ヒーザン・ケミストリー』のその後。オアシス解散、ビーディ・アイへ
そしてついにオアシスは2009年に解散。
解散後にメンバーの大半はビーディ・アイ (Beady Eye)を結成し、アンディはついにギターのポジションになります。
が、ビーディ・アイのサウンドはライドとはかけ離れ、どちらかというと解散直前のオアシスのサウンドに近しいものでした。
というわけで残念ながらアンディ・ベルがオアシスに加入すると聞いたときに思い浮かべた、あの理想のバンドサウンドはついに実現はしませんでした。
が、その時のワクワクについては未だによく覚えているし、とても代えがたい経験だったとおもいます。
オアシスのカリスマ的なバンドの存在感とロックサウンド。
きらびやかで美しく、幻想的なライドのポップさ。
考えてみたら、それらが理想的に融合したスーパーバンドって、ストーン・ローゼズそのものではないでしょうか。