バンドにとって「らしさ」とはなにか。そのバンドを規定するような特徴、音はあるのか。
今回は、そんなことを我々に考えさせてくれる様な一枚、ザ・ビートルズが1968年に発表した「最もビートルズらしくないアルバム」、なのにバンド名をタイトルにしている『ザ・ビートルズ』、通称ホワイト・アルバムを紹介したいと思います。
『ザ・ビートルズ』とはどんなアルバムか
『ザ・ビートルズ』は1968年に発表された、ビートルズ9枚目のアルバムです(アメリカ編集盤だった『マジカル・ミステリー・ツアー』を含めると10作目)。
2枚組にもかかわらずイギリスでは7週連続1位を獲得。アメリカではリリースから4日ですでに330万枚もの店頭出荷があり、アメリカだけでも当時950万枚以上売れました。
アルバムジャケットは右のやや下よりの位置にただエンボス加工されたThe BEATLESという文字が書いてあるだけ。あとは真っ白の非常にシンプルなデザイン。ただそのThe BEATLESという文字は少し斜めっていて、絶妙な位置にあります。ただの白地に文字を入れただけともとれるけれど、立派に「デザイン」されているんです。
とにかくその真っ白なデザイン、いまでこそ珍しくはないと思いますが、アメリカで起きていたヒッピームーブメントの兼ね合いもあり、 当時はサイケデリックで派手なアルバムジャケットが多かったなか当時は凄く斬新でした。
前作にあたる『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』も派手で情報量の多いデザインでした。
そこであえて真逆をついてきたので非常にインパクトがあったんですね。
デザインを担当したのはイギリスの画家、リチャード・ハミルトン。
彼はポップアートの最初期の代表的な作品である『一体何が今日の家庭をこれほどに変え、魅力あるものにしているのか』(Just what is it that makes today’s homes so different, so appealing?)で知られています。
そんなわけでこの真っ白なジャケットのアルバムは、正式名称である『ザ・ビートルズ』ではなく「ホワイト・アルバム」と呼ばれています。
ホワイト・アルバムの評価は?
ビートルズのなかでもこれほど評価の分かれるアルバムはないと思いますし、難解でとっつきにくいという意見もちらほらみます。
肯定派はほめるポイントは下記のとおりです。
- 実験的で先進性のあった楽曲が与えた後世への影響
- やりたいことだけをやりたいように詰め込んだ、その幅広い音楽性(スカ、カントリー、へビィメタル、ブルース、現代音楽 etc…)
- 今までのかっちりとしたビートルズサウンドではない、「生の」「無加工の」ビートルズが聴けるという希少性
対して否定派の意見は(決して全否定しているわけではもちろんないのですが)、
- 全員が参加している曲が少なく、ソロ作の寄せ集めになっている。
- 曲をしぼり込まなかったため、クオリティのばらつきが激しい。
などといって批判します。
面白いのは時代によって評価が変わることです。
僕が子供の時はここまで肯定的なムードはなかった気がします。
ビートルズは夢中になった僕は順に全てのアルバムを聴いていったのですが、一番最後に聞いたのはこのアルバムでした。
現在ではこのアルバムはかなり再評価されており、いまではビートルズのアルバムの中でもかなり評価が高く、最重要作のひとつとして認知されています。
それでは僕自身のホワイトアルバムに対する私見は後ほど書くとして、何曲か抜粋して見ていきましょう。
1枚目A面
バック・イン・ザ・U.S.S.R ”Back in the U.S.S.R.”
U.S.S.RとはUnion of Soviet Socialist Republicsの略でソビエト連邦、現在のロシアを中心とした連邦国家のことで、曲のタイトルはチャック・ベリーの「バック・イン・ザ・USA」をもじったもの。
ブリッジ部分ではビーチボーイズの「カリフォルニア・ガールズ」をパロディにしたり、レイ・チャールズによるカバーが有名な「ジョージア・オン・マイ・マインド」が曲中にでてきたりと、相変わらずのユーモアにあふれたロックナンバー。
リンゴ不在の時の録音のため、ドラムはポール。
評価が高いポールのドラムだが、リンゴのドラムバージョンでも聴いてみたかったきもする。
ディア・プルーデンス “Dear Prudence”
ジョン作。この曲もドラムはポール。女優ミア・ファローの妹のプルーデンス・ファローに捧げられた曲で、篭りがちな彼女に「外に出てきて一緒に遊ぼう」と呼びかけている曲。
いかにもジョンが作りそうな、実際に経験したこと、感じたことをストレートに題材にした曲。
イギリスのポストパンクバンド、スージー・アンド・ザ・バンシーズ(Siouxsie and the Banshees)のカバーが有名です。
オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ ” Ob-La-Di,Ob-La-Da”
ポール・マッカートニーのペンによる、ビートルズ流のカリプソ、レゲエソング。
サウンド通りの牧歌的で明るく、ユーモラスな、歌詞の内容です。
デスモンドとモリーというカップルの話で、2人は結婚して家庭を築き、めでたしめでたしというお話です。
ワイルド・ハニー・パイ “Wild Honey Pie“
ポールが一人で作って一人でレコーディングした1分未満の実験的な小品。
ハニーパイとお経の様に連呼し続けるだけの変な曲。
こういうおふざけやユーモアもビートルズの魅力の一つ。
ザ・コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロー・ビル ”The Continuing Story of Bungalow Bill”
フラメンコっぽいギターのイントロが入る曲。ジョン作。
いかにもそれっぽい要素を繋げて作ったようなコミカルな曲でこの曲もビートルズのユーモアが如実に出た作品。
オノ・ヨーコが歌っている部分があります。
この曲のエンディングと次の「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」のつながりがめちゃ格好いい。
ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス ”While My Guitar Gently Weeps”
ジョージの数ある代表曲のなかでもベストひとつに数えられる美しい一曲。
リード・ギターはエリック・クラプトン。
もちろん前々から素晴らしい曲を作っていたが、このホワイト・アルバムからジョージの創作性が一気に花開いていく。
もちろんクラプトンのギターも素晴らしいが1番の聴きどころはジョージの悲痛さを感じさせるボーカル。
ハッピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン “Happiness is a Warm Gun”
ジョンのペンによる、曲の長さ自体は短いが3部構成になっている曲。
レディオヘッドの「パラノイド・アンドロイド」の曲構成に影響を与えた曲。
そんな背景もあって近年評価が高まっている。
レコードでは1枚目のA面がここで終わり。
1枚目B面
マーサ・マイ・ディア “Martha My Dear“
その後のソロ活動の萌芽というか、実にポールらしさがよく出た一曲だと思います。
そういう意味ではビートルズらしくない。
アイム・ソー・タイアード “I’m So Tired”
ジョンのペンによる曲。
結構ジョンってストレートに自分の状態を表現したがるアーティストだと思ってて、疲れたからこんな曲書いたんだろうなと。
アイムオンリースリーピングとか。こういうスローなブルースっぽい曲が多いのもホワイトアルバムの特徴ですね。
ブラックバード “Blackbird”
ポールによるギターの弾き語りナンバー。
アコースティックギターの練習曲としてもよく取り上げられる小品で、筆者も昔よく練習しました。
『リボルバー』の「タックスマン」でもギターソロを披露していたポールですが、ギタリストとしてのポールももっと評価されるべきと思わせるプレイです。
ブラックバードそのものはクロツグミという鳥のことですが、この曲は黒人開放運動のことについて歌った曲です。
ピッギーズ “Piggies”
ジョージ作。クリストーマスが弾くハープシコードや室内楽団の演奏によってバロック調になってます。
華やかで可愛らしいイメージだけど中身は辛辣でブリティッシュユーモアど真ん中。
豚のSEとか最後のお遊びとかにはビートルズっぽさが現れていますね。
ロッキー・ラクーン “Rocky Raccoon”
ポール作。カントリー調の曲なんだけどポールが歌うとなんか土の香りがしないのが不思議ですね。
童謡みたいになっちゃう。
ポップの化身みたいな存在ですね。
タックピアノとかをフィーチャーしていかにもなサウンドを構築しているんですけど、モロその音楽をやっているという感じではなくてパロディ味がでちゃうんですよね。
そこは彼らなりの味付けとかユーモアのセンスのせいだとおもうんですけど。
ドント・パス・ミー・バイ “Don’t Pass Me By”
リンゴ・スターのオリジナル曲。リンゴはカントリー好き見たいで、「アクト・ナチュラリー」でカントリーソング歌ったりしてるので、最初に作曲したのがカントリーソングというのは自然なながれかも知れないですね。
ストーンズのカントリーソングと違ってビートルズのはやっぱり童謡っぽいというか土の香りがしないというか、イギリス的な感じがします。
この曲に関してはリンゴの歌い方やコード感のせいが大きいとおもいますが。
ホワイ・ドント・ウィー・ドゥー・イット・イン・ザ・ロード “Why Don’t We Do It In The Road?”
ポールの荒々しい歌唱が味わえるロックナンバー。
殆どポールが一人で作ってあとはリンゴがドラムと手拍子。
インドの路上のサルの交尾を見て書いた曲とのこと。
上品な曲の多いポールらしくない一曲で確かにジョンが歌った方が良さそうです。