今回は口笛をフィーチャーした曲、口笛ソング特集です。
映画音楽からK-POPまで、今回は口笛ソングを集めて、口笛が楽曲にもたらす効果など、色々と分析してみました。
1. 「ストレンジャー」ビリー・ジョエル “The Stranger” Billy Joel
口笛で有名な曲といえばこれではないでしょうか。アメリカのシンガーソングライター、ビリー・ジョエルの代表曲です。
この曲は最初と最後に口笛とピアノだけのパートがあって、歌の本編がそれらに挟まれてるという構成になっています。
曲のテーマは人間がふとしたときに見せる裏の顔、自分すら意識していない自分です。自分では押さえ込んでいた裏の顔、つまり「欲望」がふとした時にストレンジャーとして自分の中に現れると歌われています。
歌の本編は割とアッパーなロック調のAメロとソウルっぽい仕上がりのサビを有するなかなかファンキーで盛り上がる曲。それだけでも十分名曲です。
対して本編をサンドウィッチのパンの様に挟んでいる例の口笛パートはなんとも物悲しく寂しい曲調で、口笛がもっている独特の寂しさや、寂寥感が楽曲のテーマに無常感をもたらしていてとても効果的です。
2. 「恋はいつも」サニーデイ・サービス
今なお活動を続ける日本を代表するバンド、サニーデイ・サービスの5作目『MUGEN』のなかの一曲。
サニーデイのそれまでの経歴の中で、一番きっちりと作りこまれた一枚で、個人的には一番完成度の高いアルバムだと思っています。
この曲も今までのサニーデイのスタイルを踏襲しつつも打ち込みのリズムがうっすらと入っていたりして、アナログ的な音とデジタルな要素を上手くかけ合わせた曲になっています。
口笛の印象的なフレーズがイントロで聴けるんですけど、この曲のこの場所に口笛をもってくるというのが本当にバチっとハマっている感じがしていいんですよね。
口笛の持つ素朴さが、彼らのサウンドにもあっていますし、歌詞のテーマである恋のもつどこか寂しいような愛おしいような側面を表象しているとおもいます。
名口笛イントロです。
サニーデイで主に作詞作曲を担っている曽我部さんのソロ、「テレフォン・ラブ」でも口笛がフィーチャーされていますので是非。
3. 「ジェラス・ガイ」ジョン・レノン “Jealous Guy” John Lennon
ジョン・レノンのソロ2枚目のアルバム『イマジン』より。
「ジェラス・ガイ」も口笛ソングとしては有名ですよね。
ジョン・レノンはソロになってから、その作風をビートルズ時代からかなりシンプルなものに変えています。
様々な楽器で音の隙間を埋める様な芳醇なアンサンブルがビートルズのウリなら、ジョン・レノンのソロは余計な装飾をなるべく排除した剥き出しの音が特徴的です。
歌詞も、物語性やシュールなイメージのオンパレードだったビートルズ時代から素朴でストレートで胸を打つものになっていますね。
「ジェラス・ガイ」はオノ・ヨーコに自分の嫉妬深い性格について謝るというラブソングなんですけど、そういった赤裸々なテーマにあうような、ピアノの弾き語りがメインの素朴なアレンジで、なんかその「素」の部分と素直さや照れみたいなものが、口笛のソロという形で見事に現れています。
この曲はロキシー・ミュージックのブライアン・フェリーのカバーでも有名ですね。
そちらは原曲に比べて大分大仰なアレンジで、口笛部分のソロも、ギターとサックスにとってかわられています。
4. 「上を向いて歩こう」坂本九
日本で口笛ソングとして1番有名なのはひょっとしてこの曲かも知れません。
いわずとしれた日本歌謡史に残る名曲です。なんとこの曲はアメリカでもヒットしてビルボードトップ100で「スキヤキ」というタイトルで1位をとった日本語の唯一の曲でもあります。
ラッパーのスヌープ・ドッグとかスリック・リックとかもメロディを拝借するぐらい一応アメリカでも有名なんですよね。
さて肝心の口笛ですが、「ジェラス・ガイ」と同じパターンで歌のメロディを基本的になぞる口笛ソロです。
夜散歩しながら口笛を吹いている様な臨場感がありますよね。
この曲は主人公にとても悲しいことがあって、それが具体的に何なのかは歌の中では触れられてないんですけど、それでも前向きに行こうっていう歌詞なんですよね。
口笛を吹く事で無理にでも前向きになろうという姿勢が伝わってきてジンと来るものがあります。
5. 「ボギー大佐」スタンリー・ブラック楽団 “Colonel Bogey March” Stanley Black and his Orchestra
「サル、ゴリラ、チンパンジー」の替え歌で有名な曲で、もともとはケネス・ジョゼフ・アルフォードが1914年に作曲した行進曲でした。
映画『戦場にかける橋』のテーマソングとして使われて有名になった曲です。
おそらく皆さんどこかで聴いたことはあるかと思います。そのぐらい有名な曲ですね。
ボーイスカウトとか隊列とかで口笛をみんなで吹いて行進するという一つの文化に基づいた口笛ソングですね。
6. 「Xファイル メイン・テーマ」マーク・スノウ ”Materia Primoris” Mark Snow
1993年から2002年にかけて製作され、全世界で大ヒットしたアメリカのホラーSFドラマ、『Xファイル』のテーマソング。
使われ方としては冒頭で紹介したビリー・ジョエルの「ストレンジャー」に近いですね。
「ストレンジャー」で口笛の持つうら寂しさについて言及しましたが、それを突き詰めると不気味な響きを帯びてくるということがわかる曲だと思います。
他の楽器でこの主旋律をなぞっても、この様な効果は生まれなかったのではないでしょうか。
口笛の持つ特性を最大限に生かした曲だと思います。
『Xファイル』はめちゃくちゃ流行っていたんで、親とかも見てたんですけど、当時子供だった僕は予告編だけでも凄く怖くて、この曲はトラウマでしたね。
7. 「困ったときには口笛を (口笛吹いて)」 “Give a Little Whistle” Cliff Edwards and Dickie Jones
誰でも知ってると言っても過言ではないアニメ映画の古典、『ピノキオ』(1940年)の挿入歌。
登場人物のジミニー・クリケットが主人公ピノキオに向けて口笛を吹いて陽気にいこうと誘ってる曲。
口笛が大々的にフィーチャーされてるだけじゃなく、ピノキオがうまく吹けなかったりする様子も描かれててコミカルな曲です。
ミッキーマウスマーチや『白雪姫』でドワーフたちが歌う「口笛ふいて働こう」(Whistle While You Work)とか昔のディズニーは結構口笛ソング多めですね。
ミッキーも蒸気船を運転しながら口笛を吹いていましたしね。
当時アメリカとかで肉体労働者とかがやっぱり口笛吹きながら作業してたりしたんでしょうね。
そういう文化的な背景もありそうだなと思います。
労働を楽しくやろうとか、前向きに考えようとか、そういう口笛のポジティブな側面を利用した陽気な曲だと思います。
ある意味「上を向いて歩こう」に近い曲ですね。
8. ブラックピンク「ホイッスル」BLACKPINK “WHISTLE”
今や本国だけでなく、世界的な人気を誇る韓国発の4人組ガールズ・グループ、ブラックピンクのデビュー曲。
彼女達はアメリカで1番でかい音楽フェスティバルと言っても過言ではない、コーチェラ・フェスティバルにも出演したことで話題になりました。
タイトルが「口笛」ですから、まんまです。
USヒップホップの要素を取り入れたクールなポップソングでイントロ、間奏、Aメロ部分で口笛のフレーズが繰り返されています。
最近のR&Bっぽい余白の多いAメロの歌とかラップ部分はUSの本格的な音を再現してるって感じなんですけど、歌の部分は非常にアジアっぽいメロディラインなのが逆に面白いです。
口笛の持つクールや、余裕さ、とかそういうイメージをうまく取り入れた、実にかっこいい曲だと思います。
9. ガンズ・アンド・ローゼズ「ペイシェンス」Guns N’ Roses “Patience”
これもロックファンの間では有名な口笛ソングですね。
今まで歪ませたギターでハードな音像を聴かせていた彼らがアコースティックギター中心の楽曲に挑戦した一曲。
イントロからボーカルのアクセル・ローズの口笛が聴けます。
素朴で生のアコースティックサウンドにちょっとさみしさを感じさせるメロディに口笛が実にマッチしています。
ガンズの魅力はもちろんその激しさだったり、勢いのあるサウンドだったりするんですけど、一方で彼らは、叙情的で優しいメロディラインを書くのもうまいんですよね。
それがこの曲によく表れていると思います。
彼らのハードな要素とこういうリリカルな側面が一曲の中に組曲的に合わさるともう敵なしで、前半ハードで後半がリリカルな長尺曲「ロケット・クイーン」や、叙情的な歌の中で終盤ハードになっていくアレンジが光る代表曲の「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」なんかはガンズの一つの到達点だと思います。
10. 「北風小僧の寒太郎」NHKみんなのうた
NHK「みんなのうた」の中でも特に人気の高い一曲で、多くのバージョンがあり、また、多くの人にカバーもされてきました。最近だと相対性理論のやくしまるえつこさんのが有名です。
堺正章、北島三郎という大御所二人のバージョンがやはり有名です。もちろんお二人の歌もいいんですけど、共演している児童合唱団が実にいい味を出しているんですよね。
「カンタロー」という合間の掛け声もいいですね。
さて肝心の口笛ですが、イントロや感想に入ってきていてかなり印象的なフレージングで魅了してくれます。
TVではもちろんアニメ付きの映像になっていて、寒太郎のビジュアル、江戸時代あたりの旅人をベースとしたキャラデザ、が見れるんですけど、その旅がらす的な、飄々とした感じが実に口笛という表現にあっていますし、口笛も「風」の一種みたいなものですから、冬の寒波や木枯らしなどに重なってたりもします。
冬の季節としてなんとなく寂しく、もの悲しい感覚も口笛にあっています。
ということで、口笛の持つ楽しさ、物悲しさ、飄々とした感じ、それらの要素が少しずつ感じられるなかなか「深い」口笛の起用だと思います。
北島三郎バージョンだと口笛がシンセサイザーか何かで代用されちゃってるんで、僕は堺さんバージョンが好きですね。