今回は1999年に発表されたゆらゆら帝国のセカンドアルバム、『ミーのカー』を解説していきます。
60年代のロックが纏っていた荒々しさやサイケな雰囲気、アートな香りを漂わせたサウンドが衝撃的な一枚。
彼らの代表作といえば『空洞です』ですが、それよりはもっとオーソドックスな、でも彼らしかできないようなロックを展開している一枚。
この時点でその後彼らがどう音楽性を発展させて『空洞です』までたどり着くか、誰も予想できなかったでしょうね…。
得体のしれなさとか、オリジナリティって言う観点で見ると後期のファンは物足りなさを感じるっていうのはわかる気がしますが、やはりこのガツンとくるロックサウンドの魅力にぐっと来てしまいます。
では早速全曲見ていきます。
1. うそが本当に
曲調自体ももちろんそうなんですが、一曲目に持ってくる所とかも含めて意識してるのはヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「Sunday morning」かなと。
ハードなロックナンバーだけじゃなくてこういう、うっとりする様な美しいメロディーの曲もかけてしまうのがゆらゆら帝国の凄いところですね。
2. ズックにロック
ゆったりとしたテンポからいきなりテンポアップして異様なテンションで盛り上げる一曲。
ジミ・ヘンドリックスがパンクを経由したらこんな感じになりそう。
ソロの前の掛け声とかもろジミヘンですね。
失敗したときにひとりごちてしまう曲。
「だめだ、俺はもうだめだ」って(笑)。
動き回るベースがめちゃくちゃかっこいいです。
3. アーモンドのチョコレート
シャッフルのリズムでSGのギターサウンドが軽快に刻まれる最高のガレージロックナンバー。
バンドでコピーすると最高に楽しいす。
ギターリフが最高ですね。
4. 午前3時のファズギター
前半は語り、後半はそのタイトル通りファズによる凶悪な歪みを伴ったギターが大暴れする一曲。
語り手が宿している狂気をサウンドで表現したような暴力的な一曲。
5. BONES
穏やかで美しいメロディーと歌詞が印象的な曲。
こういうフォーキーな曲に適切なギターをつけるのって結構むずかしいと思うんですけど、難なくやってますね。
甘ったる過ぎず絶妙な加減の飽きのこないポップさを持つ曲。
6. 人間やめときな’99
リズムのキメがユニークなミドルテンポのロックチューン。
7. ハチとミツ
昔のロックが持っていたフシダラな感じがうまく出てる曲。
50年代のロックンロールには良く使われていたヒーカップ(しゃっくり)唱法を駆使しています。
60年代のサイケデリックなロックやグループサウンズのテイストも。
8. 悪魔が僕を
一見シンプルな様で音色にこだわった一曲だと思います。
まずかなり歪ませたベースサウンドがかっこいい。
野太いオルガンのようにも聞こえますね。
クリーン気味のトーンのギターが左のチャンネル、比較的高音のアルペジオフレーズで曲を装飾していきます。
途中トレモロエフェクトがかかってかっこいいです。
このパートはサビでリードギターにとって変わられます。
右のチャンネルは気持ちよく歪ませたギターがリズミカルなフレーズを刻んでいます。
これらのギターとベースの絡み合いが実に絶妙なトラックです。
9. 太陽のうそつき
ゆらゆら帝国の歌詞はボーカルの坂本慎太郎さんが書いてるんですけど、割と天体のモチーフが多くて面白いです。
次の「星ふたつ」とか。
後半の細かいリズムを刻みつつギターソロが、絡んでくるところがめちゃくちゃカッコいいですね。
スパッと終わるのもクール。
10. 星ふたつ
サイケデリックロックバラードとでもいえばいいのか。
ほんと最高ですねこの曲。
どこかに連れていかれるような、それこそ宇宙空間をふわふわと漂ってるようなトリップ感があってずっと聴いていられる。
この人力アンビエント感というか、サイケデリックな癒し感ってなかなか出せないと思いますし、それをスリーピースって最小単位でやっちゃってるところとかも、本当すごいと思います。
60年代のアメリカのロックバンドはわりとそういうバンドやサウンドとか多いと思うんですけど、やっぱりキーボードの力やドラッグに頼ってたりするんですけど、後発とはいえ、ゆら帝はすごいなと。
NHKの「ライブビート」っていう番組のライブ音源を先に聴いたんですけどそっちの方が浮遊感が更に強くて、本当に危険なぐらいずっと聴いてられますね。
音源化して欲しかったですね。
11. 19か20
なんだかんだで本当に「ロックバンド」って胸張って言えるバンドって本当にごく少数だと思うんです。
特に日本では。
いえ、だから邦楽はダメだとかいうつもりは全然なくてポップなバンド大好きだし、日本のバンドの良さってメロディーだったりするんですけど。
ただ表面的に激しかったり、ロックをなぞる曲やバンドって洋邦問わず結構あるんですけど、ただ激しいだけじゃなくて、本物が持つ空気感を纏ったバンドって本当にごく少数だと思います。
この曲もゆったりとタメの効いたリズムの曲なんですけど、こういうスローな曲で激しく聴かせる事のできるバンドって日本ではどのくらいいるのかなと思いますね。
12. ミーのカー
表題曲。
この長さをこのシンプルな編成で聴かせるっていうのはやっぱり凄いです。
「星ふたつ」とかまた違うトリップ感があってこういう感じはなかなか狙っても出せないし、ただ長いだけで退屈になる危険性があるんですけど、この曲は大成功してますね。
しかもスリーピースという最小限のアンサンブルで。
もちろんこれはスタジオ盤ですのでオーバーダビングはあるんですけど、ライブでも少しもこの曲の勢い、ヤバさ、トリップ感は減じてないどころか増してる感じすらあるんですね。
うん、とんでもないバンドです。
まとめ
ゆらゆら帝国はリアルタイムではないですけど少し遅れぐらいで聴いてて、日本にもこんなにかっこいいロックをやるバンドがあるんだと感動してました。
当時2000年代前半から中ごろは、ストロークスやホワイト・ストライプス、リパティーンズ、少し遅れてアークティック・モンキーズとかが席巻してて、所謂ロックンロール・リヴァイバルっていう一大ムーブメントが起こってたんですけど、ゆらゆら帝国が持つかっこよさとアートな雰囲気に心酔してたのでそれらのバンドにイマイチハマれなかったんだなと今にして思います。
もちろんこれらのバンドも素晴らしいんですけどね。
ゆらゆら帝国はロックンロールやバンドという形態での音楽表現に於いて、更に先に進んじゃって『空洞です』って傑作までたどり着いちゃうのも含めて改めて稀有なバンドだったなと、本作を聴き込んでみて改めて思いました。
ゆら帝初期の傑作だと思います。
是非!